娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2014刑訴

第1.①について

1.本件では、確かに乙は手ぶらであり被害品のかばんや靴やその中身を所持していなかったため、一般人の可能性もある。しかし、黒のヘルメット、水色のスクーターという乙身に着け又は乗っていたものは通報によるひったくり犯のものと類似しており、乙が犯人である可能性もある。よって、「何らかの犯罪を犯し」た「と疑うに足りる相当な理由」(警察官職務執行法(以下、警職)2条1項)といえる。もっとも、本件でKは乙の左肩に手をかけており、このような有形力行使は「停止」措置に含まれるか。

(1)職務質問は任意手段であり(警職2条3項)、比例原則の適用を受ける(警職1条2項)。そうすると、①強制にわたらない限り、②有形力行使の必要性、被侵害利益を考慮して具体的状況の下で相当と言えれば「停止」として適法である。

(2)本件では、Kは乙の左肩という人が日常で触られる場所に、手をかけるというやさしい方法で乙を引き留めている。そうすると、乙の重要な権利益の制約はなく、強制に渡らないといえる(①)。また、Kは「お話を聞かせてください」といっているのに、乙が無視している様子だったため、乙から話を聞くために乙を引き留める必要があっため、肩に手をかける必要性は高かった。一方で、上記のように肩に手をかけることは乙の利益を少ししか制約しないため、乙の被侵害利益は少ない。よって、必要性、被侵害利益を考慮して、具体的状況のもと相当といえる(②)。

2.以上から、「停止」といえ、①は適法である。

第2.②について

1.本件では、Kを三田警察署まで連れていったことが「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1項但書)といえ、法律の根拠規定を要しないか。

(1)現行刑訴法の「強制の処分」は憲法33条、35条が保障する権利利益を制約する。そうすると、強制処分法定主義の厳格な手続は、それらと同等の権利利益にのみ及ぶと考えられる。よって、「強制の処分」とは、①相手方の意思に反し、②身体住居財産等の重要な権利利益に対する実質的制約を伴う処分をいう。

(2)本件では、乙は警察署に行くことを拒んでおり、意思に反するといえる(①)。また、本件では、Kは足を踏ん張ったり、パトカーの屋根やドアをつかむという行為に出ている乙を無理やりドアに押しやっている。また、本件ではKとMで乙を挟みこんでいるため、乙はパトカーから出ることはおろか、身動きを採ることすらできなかった。よって、本件でKを連れて行ったことは重要な移動の自由を制約する処分であり、「強制の処分」といえる。よって、上記行為には法律の根拠規定を要する。それにもかかわらず、本件では逮捕状(199条1項)は発付されていなかったため、②は令状主義(同項、憲法33条)に反し、違法である。

第3.③について

1.②の逮捕の違法性が勾留の違法性を導かないか。

(1)司法の無瑕性の保持、将来の違法捜査抑止の見地から、重大な違法逮捕の後の勾留は違法となると考える。

(2)本件では、確かに上記令状主義違反がある。しかし、②の時点で、窃盗罪(刑法235条)という「三年以上の懲役…に当たる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある」といえる。また、野次馬という厄介な存在と交通の妨げという避けるべき事情があったことから、「急速を要し」ともいえる。よって、②の時点で緊急逮捕(210条1項)の要件を満たしていた。また、本件で実際に行われた緊急逮捕は同日8時30分頃には行われており、②から1時間しかたっていない。よって、重大な違法逮捕であるとは言えない。

2.したがって、③の勾留上の発付は適法である。

以上