娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H24刑事実務基礎科目

第1.設問1

1.本件では、被害者Vが、甲が犯人であるとの供述をしているわけではなく、直接証拠がない。よって、間接証拠の積み重ねで甲の犯人性を推認する。

2.犯人性を肯定する事情

(1)まず、本件では犯行時にひもとガムテープが用いられている。そして、これらの道具をZで買ったことを示すレシートがV宅から発見されている。司法警察職員、V、Wはいずれもレシートを自分が受け取ったことはないといっているため、道具の購入者である犯人が受け取ったものであると考えられる。そして、同レシートからは甲の指紋が出てきており、甲が犯人であることが強く推認される。

(2)本件では甲が犯人の特徴を、180cm、がっちりした体格、20歳台と述べている。甲の身長は182cmで95キロあることからがっちりした体格であるし、27歳と特徴がかなり一致する。よって、甲の犯人性が一応推認される。

(3)本件ではV名義のカードが盗まれた犯行時刻が午後11時頃であり、たった4時間後の近接した時点である3時には同カードが甲によって使用されようとしている。また、Kが甲に同カードを所持していた理由を質問しても、黙秘しており合理的な弁解がされていない。よって、経験則、論理則上甲が犯人であることが強く推認される。

(4)甲は平成24年4月2日、Uの勤務がなく、休みであった。休みであれば時間的拘束がなく、11時という一般人が普段働いている時間にV宅に押し入ることも可能である。よって、犯人性が一応推認される。

(5)甲の言動について、Aが甲に対して財布の入手方法を訪ねた際、「お前がそのように疑うなら、警察も同じように疑うかもしれない。」という意味不明な回答をしている。そうすると、甲はアリバイ作りを頼むための言い訳を必死に考えていたのではないかと考えられる。よって、甲の犯人性が強く推認される。

3.犯人性を否定する事情への反論

(1)確かに本件ではZの防犯ビデオに写っていた者が甲であるとは確認できなかった。しかし、その者は緑色のジャンパーを着ている大柄の男であるということが確認されている。緑色のジャンパーは甲宅から差し押さえられており、甲は緑のジャンパーを持っていたのだから、大柄である特徴も加えてその者が甲であっても矛盾しない。また、確かに同日午後3時には赤色のジャンパーを着ているが、犯行時に着ていたものを犯人が来て外をぶらつくわけがなく、犯行直後に甲は着替えたものだと考えられる。

(2)本件では、甲宅から差し押さえられた財布から指紋が出なかったため、甲が犯行に及んだことを推認できないとも思える。しかし、甲がAに財布を渡したときに甲が財布を触っているはずであり、指紋が出てこないことがむしろ不自然であり、甲が財布についた指紋をふき取ったことが考えられる。よって、指紋が出てこない事実は犯人性を強く推認する。

(3)Vは同年3月31日に荷物を届けられている。確かに甲はその時の人物は男であった、ということしか記憶していない。しかし、KはUの担当者に勤務状況を確認しており、同日にV宅に甲が言ったことが判明している。甲を雇うUは事件に対して真摯に協力するはずで供述の信用性が高く、同日にV宅を訪れたのは甲であると強く推認される。

(4)本件では確かにVが果物ナイフの古さから古い方が用いられていないといっており、もう一本の果物ナイフは台所にあったとAが証言しているのだから、後者のナイフが犯行時のものと似ているとしても、それが用いられたとは言えない。しかし、Aは甲に対して新しいものを買ってくるよう頼んでおり、その時に甲は2本ナイフを購入していた可能性がある。よって、甲にナイフを購入する機会があった以上、上記事実は甲の犯人性推認の妨げにはならない。

(5)Vは犯人がサングラスをしていて顔が見えなかったと供述している。しかし、甲宅からサングラスが差し押さえられており、甲がサングラスを持っていたことがわかるため、甲の犯人性が一応推認される。

(6)確かにZの店員はレシートを渡した経緯について覚えていない。しかし、ZとV宅の距離は200mであり、15分ほどで歩ける距離である。上記レシート記載の10時45分から犯行時刻の11時までは15分であるから、レシートから甲が道具を購入しその足で犯行に及んだと推認できる。よって、レシート記載の時刻は甲が犯人であることを強く推認させる。

第2.設問2

1.裁判所は、刑事訴訟規則205条の5に基づいて同決定をした。

2.Bの主張はAの証言が「公判期日外における他の者の供述を内容とする供述」(刑事訴訟法320条1項、以下、伝聞証拠)にあたるとの主張である。ここで、伝聞証拠の異議が問題となる。

(1)同項の趣旨は、知覚等の過程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では反対尋問(憲法37条2項前段)等による真実性の吟味をすることができず、誤判が生じてしまうためその防止を図る点にある。よって、伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②供述内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。②は要証事実との関係で相対的に決まる。

(2)本件では、甲の供述は甲宅でのものであり公判廷外のものである(①)。そして、本件争点は甲の犯人性であり、立証趣旨は犯行直後の甲の言動である。甲の言動中にある不審な言動が証明されれば甲が犯行に及んだ間接証拠となるため、要証事実は犯行直後の甲の言動である。そして甲の言動は「2人でいたといってくれ」というものである。これはアリバイ工作を頼む類のものであるから、発言自体で甲が強盗に及んだと推認でき、上記要証事実との関係で供述内容の真実性は問題でない。よって、②といえず、本件供述は非伝聞証拠である。

3.以上から、同決定をした。

以上。