娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H24商法

第1.設問1

1.本件では、X社において本件売買契約について取締役会で承認・決定がされていない。そこで、X社は「取締役設置会社」(会社法(以下略)365条1項)であるから、同契約が利益相反取引(356条1項2号、3号)にあたれば365条、356条1項柱書違反になる。

(1)同項3号は第三者と会社との利益相反取引を規制するから、2号は取締役と会社が取引をする場合を規制すると考える。そうすると、「ために」とは、名義でという意味である。

 本件では、本件売買契約はX社とY者が当事者となって締結され、BはY社を代表(同349条4項)して契約を締結をしている。よって、「第三者」であるY社「のため」に「取引」をしたといえ、本件売買契約は直接取引といえる。

(2)もっとも、356条1項2号の趣旨は会社の損失を防止する点にあるから、同号、365条1項違反の主張も会社のみすることができる。

 本件でも、X社のみ上記違反を主張でき、Y社から見て上記違反は主張できない。

2.そこで、本件売買契約が「重要な財産の…譲受け」(362条4項1号)といえ、Y社の取締役会で承認を得ていないことが同柱書違反となり、本件売買契約が無効とならないか。

(1)「重要」であるかは個別的判断によるため、財産の価格、総資産に占める割合、保有目的、処分態様、会社での従来の取り扱い等を総合して判断する。

(2)本件生地は1億円で取引されており、これ自体で高額といえる。また、Y社の年間売上高は1億円で、本件生地の金額と一致することから、総資産に占める割合も大きかったと考えられる。そして、Y社は洋服の製造・販売を目的とする会社で、本件生地は洋服を作る材料となるため、Y社にとって重要な役割を果たす。Y社では従来から本件生地のような高品質の生地は高くても手に入れたいような重要な原料だったといえる。よって、本件売買契約は「重要な財産の…譲受け」といえるため、同項柱書違反がある。

 ア、取締役会決議を欠く「重要な財産…の譲受け」は、代表者の外見と取締役会の意思が不一致である点で、心裡留保民法93条1項)と類似する。そこで、原則として有効であり、相手方が決議の欠缺について悪意又は有過失の時に無効となると考える(同項本文、但書参照)。

 イ、本件では、Y社の相手方はX社である。X社の取締役にはBがいる。そうすると、X社代表取締役のAはBに対して決議を経たか容易に聞けたといえる。それにもかかわらずAがBに決議の有無を尋ねた事実はない。よって、AないしX社はY社の決議の欠缺につき有過失だったといえ、本件売買契約は例外的に無効となる。

3.本件では、本件生地のほとんどに染色の不具合というあったため、Y社はX社に対し、瑕疵担保責任に基づく解除(民法570条本文、566条1項本文)をしている。染色の不具合は取引通念に照らして注意義務を尽くしても発見できない品質・性能の欠缺であり、「隠れた瑕疵」があり、同請求は民法上認められる。もっとも、このように「直ちに発見することができない瑕疵」(商法526条2項後段)があったとしても、本件では「検査」(同1項)をしたといえず、平成23年9月1日から「六箇月」(同2項後段)以内の平成24年2月であったとしても同後段によって解除が制限されないか。

(1)526条2項が買主の権利を制限する趣旨は、商人間の取引の安全を確保する点にある。よって、詳細に目的物を調べることが「検査」にあたる。もっとも、全部につき詳細に調べることは商取引の迅速性を妨げる。そこで、一部につき詳細な調査があれば、「検査」といえると考える。

(2)本件では、Y社は本件生地を受領した際に一部につき抜き出して詳細な検査をしている。よって、「検査」があったといえる。

(3)そうすると、色落ちの事実の「通知」(同2項前段)がある本件では、同2項後段の適用はなく、解除は妨げられない。

第2.設問2

1.本件では、Zは本件手形が本件売買契約のために振り出されたものであることを知っていたため、Y社を「害スルコトヲシリテ手形ヲ取得シタルトキ」(手形法17条但書)といえ、同本文が適用されず、Y社は上記解除をZ社に抗弁として主張できないか。

(1)同本文の趣旨は、人的抗弁を前者以外の者に主張できないとすることで、手形の流通を確保する点にある。そうすると、「害スルコトヲ知リテ」とは、所持人が提出されるに違いない抗弁の存在を知っていることをいう。

(2)本件では、Z社は上記のように契約の内容を知っていたにとどまり、X社が瑕疵担保責任に基づく解除を主張することを認識していたわけではない。よって、「害スルコトヲシリテ」といえず、同本文が適用される。

2.以上から、Y社はX社に対する解除権という「人的抗弁」を主張できず、Zからの手形金支払い請求を拒めない。

以上。