娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H25刑事訴訟法

第1.説問1

1.裁判長は甲の弁護人から実行行為者について明らかにすることを内容とする求釈明要求(刑事訴訟規則208条3項)を受けた場合、検察官への釈明義務(同1項)は生じるか。本件訴因が特定(刑事訴訟法(以下略)256条3項参照)されていれば裁判官に釈明義務が生じる。ここで、訴因の特定の基準が問題となる。

(1)訴因制度の趣旨は、裁判所に対して審判対象を画定する点にある。そうすると、訴因の機能は審判対象の画定と、その範囲でのみの被告人への防御範囲の明示にあるといえる。そうすると、①他の犯罪事実と区別するに足りる事実の記載、②特定の犯罪構成要件に該当すると判定するに足る程度の具体的事実の記載があれば「特定」といえる。

(2)「平成25年3月14日頃」と日時が特定されたうえで「暴行」「傷害を負わせた」との被告人の行為と結果が記載されていれば、被告人の他の犯罪事実と訴因記載事実は区別される(①)。確かに本件では実行行為者が記載されていない。しかし、「乙と共謀の上」との記載はある。共謀した者誰かが「暴行を加え…脳挫傷の傷害を負わせた」といえれば同事実は傷害罪の共同正犯(刑法60条、204条)の構成要件に該当するため、本件訴因記載事実は特定の犯罪構成要件に該当すると判定するに足る程度には具体的事実を記載しているといえる(②)。

2.以上から、本件訴因は「特定」されており、裁判官に釈明義務は生じない。もっとも、実行行為者が誰であるかは被告人にとって防御上重要な事実であるから、裁判官は検察官に対して実行行為者が甲乙いずれであるかを明らかにするように求釈明をすることが望ましい。

第2.設問2(判決の内容)

1.「甲又は乙あるいはその両名」という具合に択一的に実行行為者を示す判決は許されるか。「被告事件について犯罪の証明があった」(333条1項)といえず、利益原則に反しないか。

(1)刑訴法は当事者主義を採用している(256条6項、298条1項、312条1項)ことから、審判対象は検察官の主張する訴因である。そうすると、「被告事件」とは、訴因の特定に必要な事実をいう。

(2)本件では、実行行為者が択一的に認定されている。もっとも、第1で見た通り実行行為者は訴因の特定に必要ではない。よって、「被告事件」に実行行為者は含まれず、これを択一的に認定しても利益原則には反しない。

2.もっとも、罪刑法定主義憲法31条)には反しないか。

(1)罪刑法定主義は単に可罰的行為が法律に定められていなければならないというものであるにとどまらず、可罰的行為が構成要件として類型化されることまで要請しているといえる。よって、合成的構成要件を作り出すような択一的認定は許されない。

(2)本件では、「甲又は乙あるいはその両名」という形で単独犯又は共同正犯という択一的認定をしている。共同正犯は単独犯を包摂するため、それらを同時に認定しても合成的構成要件とは言えない。よって、本件でも罪刑法定主義に反しない。

第3.設問2(手続)

1.前提として、検察官が「実行行為者は乙のみである。」と釈明した場合、それは訴因の内容となるか。

(1)上記訴因の機能から、審判対象の画定に必要不可欠な事実についてのみ釈明内容は訴因の内容となると考える。

(2)本件では、釈明内容は実行行為者が乙であるということであり、甲・乙どちらが実行しても甲には共同正犯が成立するのであり、審判対象画定の見地から必要な事実ではない。よって、検察官の釈明内容は訴因の内容にはならない。

2.そうすると、訴因と認定事実に変更があったわけではないから、訴因変更の要否は問題とならない。もっとも、検察官が実行行為者を乙と明示した以上、甲はそれを前提として防御活動を展開する。裁判所はそのような甲の防御活動に配慮し争点を顕在化する義務を負う。それにもかかわらず漫然と甲以外の乙・両者についての認定をすることは同義務に反する。

以上。