娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H25憲法

第1.憲法上の主張

1.甲案は、「世襲」議員の立候補の自由(憲法(以下略)15条1項)を侵害するものとして、違憲である。

(1)同項は公務員の選挙権を定めているが、これと表裏の関係にある自らが立候補する自由も同項により保証される。「世襲」であるか否かで立候補の可能性に区別を加える理由はなく、「世襲」議員にも立候補の自由が保障される。そして、甲案では「世襲」議員が政党の公認候補となれないことになっている。政党の名を使えない「世襲」議員は立候補を断念することもありうる。よって、立候補の自由への制約がある。

(2)「世襲」議員は近親者に政治家を持ち、政治とはどのようなものか肌で感じ取ってきたものである。そのような者が国政に関与する立候補の自由は重要なものである。そして、政党の公認候補になれなければ政党からの応援を受けることができず、立候補時他者と比べて大きなハンデとなる。そうすると、制約は重大である。よって、目的が必要不可欠で、手段が必要最小限度といえなければ違憲である。

(3)甲案の目的は、一般の新人候補者と「世襲」議員の実質的平等を確保する点にある。もっとも、「世襲」議員が一般候補者よりも恵まれた環境で選挙できるのは一つの才能であり、これを無理やり阻害する平等政策は不当である。よって、目的が必要不可欠とは言えない。また、確かに政党の公認候補にさせなければその分「世襲」の知名度等のメリットが減殺され、一般候補者との平等を図ることができるとも思える。しかし、メリットの減殺をするなら「世襲」のメリットを享受可能な地域に限定すべきであり、配偶者及び三親等以内の親族が選出されている小選挙区小選挙区を含む都道府県(以下、特定都道府県)は広すぎる。よって、より制限的でない代替手段を模索していない甲案は手段の最小限度性も満たさず、違憲である。

2.乙案は甲案と同じ範囲から立候補できないとするものであり、甲案と比べて制約が強い。よって、上記基準によるべきであり、同様にして違憲である。

2.反論

(1)甲案について、政党の公認候補となれなくても、特定都道府県からの立候補事自体は可能であり、制約がない。

(2)乙案について、確かに立候補自体は制限されている。しかし、特定都道府県外の小選挙区からであれば立候補できることになっており、制約が重大とは言えない。

3.私見

(1)確かに政党の公認候補になれなくても特定都道府県内からの立候補が可能である以上、事実上立候補が困難となるにすぎないとも言えそうである。しかし、政党は国民が政治意思を形成するための最も有力な媒体であり、議会制民主主義の根幹をなす媒体である。このような媒体には資金が集まり、これを政党内で分配されることになる。分配された資金は重要な選挙資金となる。よって、甲案によっても制約を観念できるため、反論(1)は失当である。

 なお、「世襲」のメリットとして選挙資金において有利ということがあるため、選挙資金が政党から配分されなくても制約がないとも思える。しかし、配偶者・親族がお金持ちでなければ「世襲」であったとしてもメリットを享受できないため、「世襲」議員の選挙資金の有利性は制約の有無に影響を与えない。

(2)確かに他の都道府県から立候補できるため憲法の要請する立候補の自由自体の制約はないとも思える。しかし、都道府県は広さがそれぞれ異なるため、一律に特定都道府県から立候補できないとするのは制約が重大となる場合がある。例えば乙案によれば特定都道府県を出るために「世襲」議員が北海道の最北端から青森まで移動しなければならなくなることも考えられ、全国の「世襲」議員に著しい負担を強いることになる。よって、制約が重大であるといえるため、反論(2)は失当である。

以上。