娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問6

第1.(1)について

1.本件では、形式的には逮捕・勾留の要件を満たしている(刑事訴訟法(以下略)199条1項本文、同2項但書、207条1項本文、60条1項各号、87条1項)。もっとも、本件では殺人事件について取り調べる目的で窃盗罪の逮捕状が請求されている。ここで、別件逮捕・勾留の適法性が問題となる。

(1)確かに起訴前の身柄拘束期間は、罪証隠滅や逃亡を目的とするため、捜査の状況が身柄拘束の違法性を導くことはない。しかし、起訴前の身柄拘束期間の趣旨は、被疑者の罪証隠滅・逃亡を防止した状態で、身柄拘束の理由とされた被疑事実につき、起訴不起訴の決定に向けた捜査を行う点にある。そうすると、別件を被疑事実とする身柄拘束期間が、主として本件の捜査のために利用されている場合は、別件による身柄拘束としての実体を失い、令状主義(199条1項本文、憲法33条1項)に反し、違法となる。

(2)確かに本件では、Kは逮捕状請求時、窃盗事件の身柄拘束を利用してVに対する殺人事件という別の取調べをすることを意図していたといえる。また、窃盗罪と殺人罪は財産に対する罪、生命に対する罪と質的に異なるものである。しかし、最終的には専ら窃盗事件についてのみ取り調べは行われており、殺人罪の取り調べ時間が占める割合はまったくの0%である。よって、窃盗事件を被疑事実とする身柄拘束期間が主として殺人事件のために利用されたとはいえず、令状主義違反はない。

2.以上から、逮捕・勾留は適法である。

第2.(2)について

1.(2)の別件逮捕・勾留は適法か。

(1)上記規範で判断する。

(2)本件では、確かにKは窃盗事件のみを取り調べる意図しか有しておらず、別件逮捕・勾留の意図は有していなかった。しかし、実際に行われた取り調べでは、捜査方針が転換された結果、上記のように窃盗事件とは全く別の殺人事件について主として取調べがされており、主として殺人事件の捜査のために窃盗事件を被疑事実とする期間が利用されたといえる。よって、(2)の取調べは令状主義に反する。

2.以上から、(2)の別件逮捕・勾留は違法である。

以上