娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

中大2017刑法

第1.甲の罪責

1.甲が乙に飛びついた行為に逮捕罪(刑法220条)が成立しないかが問題となるが、甲は逮捕しようとしたにとどまり、「不法に人を逮捕」といえない。また、未遂犯(43条本文)の処罰規定もない。よって、同罪は成立しない。

2.甲が乙を飛びついた行為について、暴行罪(208条)が成立しないか。

(1)「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使である。本件では、甲は乙の身体に飛び掛かっており、甲は自分の体を使って乙の身体に有形力を行使している。よって、「暴行」といえる。

(2)故意とは構成要件該当事実の認識・認容である。本件では、甲は功名心から、現行犯逮捕の要件はないが乙を捕まえたいと思っている。そうすると、不法な有形力行使に対する認識は十分あったといえ、暴行罪に対する故意があるといえる。

(3)よって、暴行罪は成立する。

第2.乙の罪責

1.乙が甲を突き飛ばした行為について、傷害罪(204条)が成立しないか。

(1)「傷害」とは、人の生理機能を侵害することをいう。本件では、乙が甲を突き飛ばしたことによって甲は脳震盪を起こし、役1時間気を失った。そうすると、脳が一時的に機能を一部失ったといえ、生理的機能への障害あるから、「傷害」といえる。

(2)もっとも、乙の行為は甲の暴行に対する正当防衛(36条1項)といえ、違法性が阻却されないか。

 ア、「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現在し、又は間近に押し迫っていることを言う。本件では、甲は乙に対して飛び掛かっており、すぐにでも乙は組ふせられようとしていた。よって、違法な法益侵害が現在ないし間近に押し迫っていたといえ、「急迫不正の侵害」といえる。

 イ、「防衛するため」といえるには、防衛の意思が必要であり、その内容は、急迫不正の侵害を認識しつつそれを避けようとする単純な心理状態である。乙は驚いて思わず乙を突き飛ばしたのであり、反射的に反応したに過ぎない。よって、上記心理状態があり、防衛の意思があるから「防衛するため」といえる。

 ウ、「やむを得ずにした」とは、防衛の必要性・相当性である。

 乙の行為は乙の身体を守るため必要であった。そして、確かに甲には気を失うという重大な結果が生じている一方、乙には何ら怪我をしていないため、防衛は過剰だったとも思える。しかし、甲は走りながら甲に近づいてきており、勢いが相当ついていたといえる。そうすると、乙が空手経験者掌底突きので対抗したとしても、均衡を失するとは言えない。よって、防衛行為は相当だったといえ、「やむを得ずにした」といえる。

 エ、よって、正当防衛が成立し、違法性が阻却されるため、傷害罪は成立しない。

2.また、同じ行為に公務執行妨害罪(95条1項)が成立しないかが問題となるが、同罪の保護法益は公務の円滑な遂行であるから、違法な職務は「職務」に含まれない。本件では上記のように甲の職務は違法であり、「職務」といえず同罪は成立しない。

以上。