娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

事例演習刑事訴訟法 設問26

第1.(1)について

1.乙の手帳は「公判期日における供述に代」わる「書面」(刑事訴訟法(以下略)320条1項、以下、伝聞証拠)といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)同項の趣旨は、知覚・記憶・表現・叙述の各課程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では反対尋問等による真実性の吟味をしえず、誤判が生じてしまうため、それを防止する点にある。そうすると伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②供述内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。②は要証事実との関係で決まる。

(2)乙の手帳は公判廷外の乙・甲の公判廷外の供述を内容とする(①)。また、本件争点はXの犯人性であり、立証趣旨は甲との会話の状況である。乙と甲が会話したこと自体ではXの犯人性と何ら関連性を有しない。一方で、甲が殺害現場を目撃した状況を証明できれば、Xの犯人性を直接証明できるのだから、要証事実は甲の殺害現場の目撃状況である。そうすると、乙と甲の供述内容の真実性を証明するために用いられるため、乙の手帳は再伝聞証拠である。伝聞証拠ですら同項で証拠能力が否定されるのだから、再伝聞証拠である乙の手帳も同項で証拠能力が否定される。

2.もっとも、乙の手帳は例外的に証拠能力が肯定されないか。

(1)確かに再伝聞証拠の例外を定める規定はない。しかし、一つ目の伝聞性について例外(321条1項各号)が認められれば、その書面は「供述に代えて」(320条1項)証拠となるため、324条1項、2項を類推適用できる。また、伝聞例外の趣旨は、証拠の必要性と供述の信用性の状況的保障である。再伝聞証拠にもそのような比較衡量が妥当する以上、二つの伝聞過程について伝聞例外要件を満たせば証拠能力が認められると考える。

(2)本件では、乙が「死亡」(321条1項3号本文)しており、その他の要件を満たす必要がある。また、甲は「被告人以外の者」(324条2項)であるため、同項が類推適用され、甲についても321条1項3号の要件を満たす必要がある。すべての要件を満たせば乙の手帳は証拠能力が認められ、裁判所はこれを採用することができる。

第2.(2)について

1.本件調書も伝聞証拠といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)上記規範で判断する。

(2)本件調書は、甲、Xの公判廷外の供述を内容とする(①)。また、上記のように甲との会話の状況を証明しても意味がなく、本件調書はXがVを殺害した状況の証明に用いて初めて意味がある。そうすると、要証事実はXがVを殺害した状況であり、本件調書は甲、Xの供述内容の真実性を証明するために用いられるため、再伝聞証拠にあたる。

2.もっとも、伝聞例外が認められないか。上記のように二つの伝聞例外要件を満たす必要がある。

(1)本件調書は検察官面前調書の中でも供述録取書であるから、甲の伝聞過程については「署名若しくは押印」(321条1項柱書)と、同3号の要件が必要である。

(2)また、Xは「被告人」(322条1項)であるから、同項が類推適用され、同項の要件該当性が必要である。

(3)上記要件を満たせば証拠能力が肯定され裁判所は本件調書を証拠として採用できる。

以上