娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H28刑事実務基礎科目

第1.設問1

1.殺意とは、自己の行為によって客体である人が死亡することの認識・認容である。

2.本件では、凶器である拳銃の使用法は乙組玄関付近をねらって打ったというものである。乙組玄関は防弾使用であり、玄関を貫通して中にいる者に危害が加わる恐れはなかった。Aはこのことを認識していたからこそ、乙組を脅す手段として利用したといえる。また、Aは拳銃を撃つ際に目を閉じており、玄関から門扉まで3mしかないとはいえ、人が玄関から出てきていることは認識していなかった。よって、本件では殺意は否定される。

第2.設問2

1.(1)について

 現場供述とは、検証・見分の機会を利用してされる事件に関する供述である。一方で現場指示とは、検証・見分対象を特定するための指示説明である。

 ㋐では、WはVの立ち位置、Wの立ち位置を示している。その直後にV役YとWが当時の位置に立ち、それぞれについての距離を計測した結果が続けて記載されている。このようにWの指示は見分の動機となっており、見分対象を示す指示説明といえる。よって、㋐は現場供述ではない。

 ㋑では、犯人の立ち位置と銃口の位置について述べている。その直後に犯人役Wに模擬拳銃を持たせ、銃口からの距離を計測している。このようにWの指示は見分の動機となっており、見分対象を示す指示説明といえる。よって、㋑も現場供述ではない。

2.(2)について

検察官は、326条1項によって不同意とされた結果原則通り証拠能力が否定される(320条1項)③について伝聞例外を検討し、証拠能力を認めてほしいはずである。本件では③は実況見分調書であるから321条3項の直接適用はできないが、類推適用できないか。

(1)同項の趣旨は、作成主体が専門的知識を有し主観的要素が入り込む余地が少ないこと、書面の方が正確性において口頭よりも優れていることから伝聞例外を認めた点にある。この趣旨は同様に実況見分調書にもあてはまる。よって同調書に同項を類推適用できる。

(2)本件でも③は実況見分調書であるから、検察官は同項によって名義・作成の申請を供述させるべく、同調書の作成者の証人尋問を請求すべきである。

第3.設問3

本件ではbとdで犯人性と殺意とが争う対象として入れ替わっている。よって、主張の変更とみることができるから、316条の22第1項によってdの主張を明示すべきである。そして、同2項によって追加すべき証拠の取り調べを請求すべきである。

第4.設問4

1.(1)について

 ⑪については、事件が起きた11月1日の日付があること、乙組事務所周辺の地図が書かれていることから、メモの所有者ないし作成者が⑪の記載通りに犯行に及んだことが推認される。

 ⑪にはAとCのシールが張ってある。他人の顔写真を所有物に貼ることは考えづらいから、⑪の作成者はA又はCと考えられる。そして⑩から⑪はA方にあったものだとわかるため、⑪はAの所有物である蓋然性が高い。

 以上から、犯人がAであるとの推認が可能である。

2.(2)について

 ⑬は犯行計画のメモを作成したことを認めるものであり、主要事実を直接証明する証拠である直接証拠である。本件の場合は⑩⑪は間接証拠ではなく、⑬の証拠の証明力の判定に役立つ事実である補助事実を認定するための補助証拠となる。

第5.設問5

1.(1)について

 誘導尋問とは、質問者が希望し又は期待している答えを暗示する質問である。刑訴規則(以下、規則)199条の3第3項柱書本文は、原則として主尋問における誘導尋問を禁止している。

 本件では、検察官は車を運転したときのことを前提として質問している。車を運転したことが証明できれば、Aが犯行現場に行ったことの間接証拠となるため、運転したことは検察官が期待する質問である。よって、本件の質問は誘導尋問に当たる。同項各号該当事由もない。よって、規則205条の6第1項によって裁判所は尋問を中止させなければならない。

2.(2)について

 本件では、Cは取り調べの際の書面の作成について覚えていないと述べている。よって、規則199条の10の「書面…に関しその成立」についての尋問する場合である。同条は規則199条の11、12と比べて裁判長の許可はいらないものである。もっとも、規則199条の10第2項によって弁護人に対し閲覧の機会を与える必要がある。よって、閲覧の機会を与えた後であれば許可なく許される。

以上。