予備試験H27刑事実務基礎科目
第1.設問1
1.(1)について
③意見は、類型証拠開示(刑事訴訟法(以下略)316条の15第1項)を受けた後の公判全整理手続におけるものである。よって、316条の16第1項に基づいて、③のような同意、意義の有無を明らかにする必要がある。
2.(2)について
本件ナイフはK駐車場出入り口から北側10mしか離れていない歩道上に落ちていた(甲3号証)。そして、そのナイフについた血からは被害者であるVのDNAが検出されている(甲6号証)。これらのことから本件ナイフは本件の凶器であると強く推認され、関連性がある。
3.(3)について
直接証拠とは主要事実の存在を直接証明する証拠であり、間接事実とは主要事実の存在を推認させる事実である間接事実を証明する証拠である。
甲第5号証は本件ナイフにAの指紋があったことを内容とするものである。Aが別の機会に本件ナイフを触った可能性が否定できない以上、直接証拠には当たらない。もっとも、公訴事実記載の飛び出しナイフでVを指した犯人はそのナイフに指紋を付着させているはずである。犯行に用いられたナイフは上記のように現場付近で領置されており、そのナイフからはAの指紋が検出されている。よって、甲5号証はAが犯人であることを推認可能にする間接証拠ではある。
第2.設問2
1.まず、権利保釈(89条)、裁量保釈(90条)の順番で検討する。
2.権利保釈
(1)まず、公訴事実には傷害罪(刑法204条)の記載があり、89条1号の事由はない(刑法204条、12条1項参照)。そして、Aには前科はなく89条2号の事由もない。また、常習でもなく氏名も住所も分かっているから、同3号、6号の事由もない。
(2)もっとも、4号該当事由がないか。罪証隠滅の①対象、②態様、③客観的可能性、④主観的可能性で判断する。
本件では、まず隠滅対象としてB子がいる(①)。確かにVに接触しない上申書はあるが、形式的なものであるため高度に信用できない。Aは新しいB子の連絡先を仕入れており、連絡を取ってくることが考えられる。実際に過去にはAは何度も電話等をよこしており、家に来ることもあった。よって、B子には高度の接触可能性がある(②③)。また、本件ナイフについては知らないと言ってその一点張りであり、陥れようとしているとの被害妄想的発言をしていることから、B子の口封じにかかる意図を持っていると考えられる。よって、主観的可能性も認められる(④)。
また、B子ほどの関係性はないが、Vに対する口封じも考えられる(①②③④)。
(3)同様にしてB子については同5号事由も認められる。
(4)よって、権利保釈は認められない。
3.裁量保釈
(1)身柄拘束の必要性、被告人の不利益等を衡量して判断する(90条参照)。
(2)本件では、上記のようにAはB子の住所を知っているため接触可能性がある。B子が引っ越すのが得策とも思えるが、B子にそのような余裕はなく、引っ越しは選択肢に上がらない。そうだとすれば被告人の身柄拘束が望ましいとも思える。
一方で本件では、Aの母親は交通事故にあっており、平成26年12月上旬からAと母親で2人暮らしをしている。脳挫傷は麻痺の症状を生じさせたため、Aによる母親に対する日常での介護が必要不可欠である。また、父親とは1度もあっておらず、父母が離婚もしていることから、父親と母親、父親とAの関係は希薄である。よって、父親による介護は期待できない。兄弟についても同様である。また、Cの下で働いているAが身柄を拘束されれば、後期内の業務が停滞してしまい、Cに著しい経済上の不利益が生じることになる。
(3)よって、被告人や被告人の家族、上司が回復不能の損害を被る恐れが上回るといえ、裁量保釈を認めるべきである。
第3.設問3
320条1項の「書面」「供述」は、供述証拠であるのに信用性のテストが不可能である証拠、すなわちa公判廷外の供述を内容とする証拠で、b要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるものである。
1.(1)について
①は公判廷外でされた(a)。もっとも、「人の女に手を出」したかは重要ではなく、そのような喧嘩を売るような発言をしていたこと自体でVに対する嫌悪を証明でき、争点である犯人性の立証に有意義である。よって、内容の真実性は問題とならず、bを満たさない。
検察官は①は非伝聞であると答えるべきである。
2.(2)について
②も同様にaを満たす。Vをナイフで刺したことが証明できれば、Vが犯人であることを直接証明できるため、犯人性の立証に役立つ。よって、要証事実はVがナイフで刺したことであり、内容の真実性が問題となる(イ)。
そうすると②は伝聞供述であり、324条1項、322条の適用がある。
本件では、AはB子と復縁を迫っている。復縁したい相手には正直に自分のしたことを話すと考えられるし、電話であれば他の者に聞かれる恐れはない。よって、「特に信用すべき情況」があり、②は伝聞例外として証拠能力が認められる。
以上から、②は伝聞例外であると答えるべきである。
第4.設問4
本件では、弁護人はAから自分が犯人であることを打ち明けられたうえでの弁論を行っている。このような弁護活動は真実義務(弁護士職務基本規定(以下、規定)5条の)真実義務に違反しないか。
規定5条は真実義務を課す一方で、刑事弁護では被告人の防御に最大限尽くす必要がある(規定46条)。よって、弁護人の負う真実義務は、裁判所、検察官の真実発見を積極的に妨害してはならない、消極的真実義務であると考える。
本件では、Aは無罪である答弁を行っているにすぎない。無罪の答弁があってもそれを前提に検察官裁判所は真実発見を目指すのだから、消極的真実義務に反するところはない。よって、規定上の問題は発生しない。
以上。