娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H27刑事訴訟法

第1.設問1

1.まず、①②③が「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1項但書)にあたり、法律の根拠規定を要しないか。

(1)現行刑訴法の「強制の処分」である逮捕(199条1項)、捜索、差押え、検証(218条1項)は、憲法33条、35条が保障する程重要な権利利益を制約する処分である。このような「強制の処分」から厳格な手続きで保護されるには、それらと同等の重要な権利利益が制約される必要がある。よって、「強制の処分」とは、a相手方の意思に反し、b身体住居財産等の重要な権利利益を制約する処分である。

(2)①②③の写真撮影は捜査目的であり対象者の意思に反する(a)。また、室内での撮影は居住者が普段外部から見られることのない私生活領域を犯す。よって、重要な権利利益の制約がある(b)。よって、①②③は「強制の処分」である。

2.そして、①②③は場所物人について五官の作用によりその形状を感知するものであり、「検証」(218条1項)にあたる。そうすると、検証令状がない本件では令状主義(同項、憲法35条1項)に反し、違法とも思える。しかし、本件被疑事実での捜索差押許可状(以下、本件令状)が発布されており、この効力によって①②③が適法とならないか。

(1)令状主義の趣旨は、裁判官の事前の司法審査によって不当な人権侵害を防止する点にある。そうすると、事前に審査を経た範囲である捜索差押えに付随する処分は令状の効力として適法である。

(2)①について

 ①は呈示された上記許可状を乙が見ている状況を写真撮影したものであり、222条1項本文前段、110条の手続の適法性を担保するためのものであり、捜索に付随する処分といえる。よって、本件令状により適法となる。

(3)②について

 ②はサバイバルナイフと甲の運転免許書を同時に撮影するものである。これら2つが近くにあればナイフも甲所有ではないかと推認でき、2つは本件被疑事実に関する証拠となるものだから、撮影は証拠価値の保存になるといえる。よって、付随する処分といえ本件令状により適法である。

(4)③について

 ③では注射器・ビニール袋という本件被疑事実である甲のVに対する傷害とは何の関係もない物を撮影している。これらは令状裁判官の審査を経たような付随する行為ではなく、本件令状によっても許されない。よって、令状主義に反し、違法である。

第2.設問2

1.P作成の書面(以下、本件書面)は「公判期日に代」わる「書面」(320条1項、以下、伝聞証拠)といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)同項の趣旨は、知覚記憶表現叙述の各課程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では反対尋問・裁判所の観察・偽証罪の告知・宣誓を欠き誤判が生じるため、それを防止する点にある。そうすると、伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②その供述内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。②は要証事実との関係で相対的に決せられる。

(2)本件書面中のPによる説明は公判廷外のものである(①)。そして、本件では甲は「サバイバルナイフは乙の物だ。」と主張しているため、争点はナイフの所有者であり、立証趣旨は甲とナイフの結び付きとなっている。甲の運転免許証・健康保険証が置いてあった机の引き出しは、甲にとってそのような貴重品をしまっておく場所だと考えられる。血の付いたナイフは机の引き出しにしまってあった。そうすると、ナイフを甲は大事に保管していたことが推認され、更にナイフは甲所有ではないかとも推認されるから、ナイフが机にしまってあったことを証明することは争点との関係で意味がある。そうすると、立証趣旨が要証事実となり、本件書面はPの供述内容の真実性を証明するために用いられるといえ、②といえる。よって、本件書面は伝聞証拠である。

2.もっとも、作成主体はPという警察官であり、作成主体の専門性による信用性、口頭によるより書面の方が正確という321条3項の趣旨が本件書面にも妥当することから、321条3項の類推適用によってP自身が公判で名義・作成内容の真正を供述すれば証拠能力が認められると考える。

3.また、②の写真は機械的な記録によるため、知覚記憶表現叙述の過程に誤りが生じない証拠といえ、非伝聞証拠であるから原則通り証拠能力が認められる。

以上。