娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H27刑法

第1.甲の罪責

1.甲が用度品購入用現金から50万円を取り出して丁に渡した行為について、業務上横領罪(刑法(以下略)253条)の共同正犯(60条)が成立しないか。

(1)「業務」とは、社会生活上反復継続して行われる事務であり、委託を受けて物を占有保管することを内容とする事務である。

 本件では、甲は総務部長という職務を遂行する中で用度品購入用現金を反復継続して管理している。また、これはA社の社員としてA社から保管の委託を受けたものである。よって、「業務」といえる。

(2)同現金はA社が用度品を購入するためのものであり、甲が占有するA社の物であり、「自己の占有する他人の物」といえる。

(3)「横領」とは、不法領得の意思を発現するであり、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。

 本件では、甲は他人の物の占有者である。そして、同現金は用度品を購入するためのものであるから、丙へ契約締結の対価として50万円を渡すのはA社からの委託の任務に反し、A社でなければできないような処分である。よって、不法領得の意思の発現があり「横領」といえる。

(4)60条の処罰根拠は相互利用補充関係の因果性の惹起である。よって、要件は①共謀、②実行行為である。

 本件では、甲は専ら乙を助けることを目的として丙に50万円を渡そうとしている。よって、自己のために犯罪をする意思がなく、①といえない。甲は正犯を容易にしたにとどまる。よって、業務上横領罪の幇助犯(62条1項)(a)が成立する。

2.甲の上記行為に贈賄罪(198条)の幇助犯が成立しないか。

(1)「賄賂」とは、公務員の職務に関する不正の報酬としての利益である。

 本件では、丙はB市職員として公共工事を受注する業者を選定する権限を有する。50万円はA社と契約を締結することに対する謝礼であり、対価といえる。よって、不正の報酬としての利益といえ、「賄賂」といえる。

(2)甲は50万円を丁に手渡し、「供与」している。

(3)aと同様にして贈賄罪の幇助犯(b)が成立する。

3.罪数

 以上からabが成立するが、abは「一個の行為」(54条1項前段)によるもので、観念的競合となる。

第2.乙の罪責

1.甲に第1の1、2の行為を頼み実行させたことについて、横領罪(252条1項)の間接正犯、贈賄罪の間接正犯が成立しないか。間接正犯の実行行為性が問題となる。

(1)実行行為とは構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為である。他人を道具として利用する場合でも同危険を生じさせることができる。よって、①他人を道具として利用し、自己の犯罪を実現する意思があり、②利用行為によって他人を道具として一方的に支配・利用して、③構成要件を実現させたといえれば実行行為性があるといえる。

(2)乙はかつて甲の先輩であり、甲を助けたことがあったため、甲はそのことに恩義を感じていた。乙はこのことを認識しており、甲を自己のために50万円を丙に供与するための道具として利用する意思があったといえる。また、乙は降格を免れるために契約を何としてでも締結させるためという50万円の供与の動機がある。よって、自己の犯罪を実現する意思もある(①)。そして、甲は専ら乙を助けるために行動したのであり、自己のためにする意思はなかった。そうすると、客観的に乙の支配下にあったといえ、支配利用関係があったといえる(②)。もっとも、乙は「業務」(253条)者ではないから横領罪(252条1項)の範囲で構成要件を実現している。贈賄罪について同罪の構成要件を実現している。

(3)以上から、横領罪の間接正犯(c)、贈賄罪の間接正犯(d)が成立する。

2.罪数

 cdは「一個の行為」によるため、観念的競合となる。

第3.丙の罪責

1.丙が50万円を丁に受け取らせた行為について、受託収賄罪(197条1項後段)が成立しないか。

丙はB市職員という「公務員」であり、公共工事の受注という「職務に関し」、上記「賄賂を収受」し、甲から「A社と契約してほしい」と依頼を受けており「請託」がある。

2.契約が法令・内規に反しない本件では加重収賄罪(197条の3第1項)は成立しない。よって、受託収賄罪が成立する。下記のように丙との間で共同正犯となる。

第4.丁の罪責

1.丙との間に受託収賄罪の共同正犯が成立しないか。

(1)上記規範で判断する。

(2)本件では、丁は丙と電話し、契約や謝礼について会話しているから、意思連絡がある。また、丙丁は夫婦であり、経済的利害が一致するから、丁には50万円を受け取る動機もある。そして、50万円の受取りという重大な寄与がある。よって、自己のためにする意思もあり正犯意思がある。以上から、共謀(①)があるといえる。また、丁が受け取っており実行行為がある(②)。

2.以上から、同罪の共謀正犯が成立する。

以上。