娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H27憲法

第1.設問1について

1.私は、憲法(以下略)98条、76条3項、99条から違憲審査権は抽出されないと考える。以下理由を述べる。

2.98条について

 違憲審査権の効用は、憲法適合性の審査である(81条)。そして、98条は確かに「効力を有しない」として憲法適合性の審査がされることの根拠条文であるとも思える。しかし、同条には誰がその審査をするのかが明記されておらず、根拠条文とはなりえない。

3.76条3項について

 確かに同項は「裁判官」が「憲法」に「拘束」されると定めているから、裁判官が構成する裁判所が憲法適合性の判断を下すことを内容とするとも思える。しかし、そもそも同項の趣旨は司法権を独立させ、公平な裁判所を実現する点にあるにすぎない。違憲審査権という強力な権限の主体を認める条文としてはいかにも弱い。よって、同項は根拠になりえない。

4.99条について

 確かに同条は「裁判官」の憲法擁護義務を定めている。しかし、「天皇」や「摂政」等もその義務を負うため、違憲審査権の主体を定める条文としては不自然である。

5.以上から、個々の条文のみによって違憲審査権は抽出されない。組み合わせによって中執されないかが問題となるが、主体の明記に欠ける98条を支える条文として76条3項、99条は上述の通り弱い内容である。よって、組み合わせによっても抽出されない。

第2.設問2について

1.Aの主張

 本条約は25条、22条1項に反し、違憲である。

(1)25条1項は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する。農業を営む者が農業を継続できなければ、食料を継続的に手に入れられず、健康な生活が維持できなくなる。よって、X国からの湯優良を増やして国内の自給率を20%にする本条約は生存権を侵害する。また、22条1項はその保障を実質的なものとするため、営業の自由も保障していると考えられる。本条約は上記内容であるから、国内での農業に冠する営業を阻害し、営業の自由を侵害する。

(2)以上から、本条約は違憲である。

2.国の反論

(1)条約が81条に規定されていない点については、条約が他国との間に締結される規範であるという特殊性に照らして、立法者があえて除外したと考えられる。また、日本は国際協調主義(98条2項)を採用していることからすれば、条約を順守する要請は大きい。よって条約は憲法に優位するため、条約は違憲審査の対象外である。

(2)そう考えられないとしても、条約は国会で審議され(61条、60条2項)、内閣によって締結される(73条3号本文)ことから、三権分立の観点から最終的な条約の内容の判断は政治部門にゆだねられるべきである。よって違憲審査の対象外とされる。

3.私見

(1)被告の反論に従って仮に条約が審査権の範囲外だとすると、内容的に憲法に反する条約が締結された場合には、法律よりも簡易な手続によって成立する条約(61条参照)によって憲法改正することが可能となり、国民主権(1条)ないし硬性憲法(96条1項)の建前に反することになる。よって、憲法は条約に優位すると考えるべきであり、条約は審査対象となる。

(2)確かに被告の反論の通り三権分立の限界から、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は違憲審査の対象外である。もっとも、81条の趣旨は上記のものであり、裁判所が国会、内閣の暴走を制止する必要性もある。よって、一見極めて明白に違憲無効な国家行為は例外的に審査対象となる。

 本条約の目的はグローバル化の推進、X国との貿易摩擦の解消である。これら2つの目的はいずれも世界情勢や相手国との関係を考慮した政治的な判断を必要とするものである。また、締結までに議論が紛糾したにもかかわらず最終的に承認(73条3号但書)されており、国民の代表者である議員の議論を色濃く反映したものである。よって、本条約は直接国家統治の基本に関する政治性の高いものである。よって、原則審査対象外といえる。

確かにAのような農業を営む者は価格競争に負け、職業の存続が困難になってしまう。しかも、世界的には60から70%が平均的な数字であるにもかかわらず、その3分の1程度である20%まで食料自給率が落ちることが予想されている。しかし、20%でも0%までは落ちないため、農業をするものの自助努力によって回復可能な数値であるともいえる。よって、明白に違憲無効とまではいえず、原則どおり審査対象外である。

以上。