娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H26刑事訴訟法

第1.自白法則(刑事訴訟法(以下略)319条1項、憲法38条2項)について

1.本件ではKは甲に対し、「君が話した内容は…私の胸にしまっておく」と言っており、結果甲は自白に転じている。よって、「任意にされたものでない」(319条1項)といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)自白法則の趣旨は、任意でない自白は類型的に虚偽の恐れがあり、これを用いるとゴア犯が生じる可能性があるためそれを防止する点にある。そうすると、「任意にされたものではない」とは、虚偽の自白を誘発するような状況の有無により判断する。

(2)本件では、確かにKは後述の録音に及んでいることから「私の胸にしまっておく」という発言は嘘であり、嘘をついてでも供述を引き出すという強いKの意図が伺われる。しかし、供与される利益は警察官や検察官には教えないという消極的な内容である。また、甲の精神的・身体的状況からして虚偽の自白をしたような事実はなく、むしろ「それなら本当のことを話します」と熟考した上で答えているともいえる。よって、虚偽の自白を誘発するような状況があったとは言えず、「任意にされたものではない」とはいえない。

2.以上から、自白法則から証拠能力は否定されない。

第2.伝聞法則(320条1項)について

1.本件ICレコーダーは「公判期日に代」わる「書面」(以下、伝聞証拠)といえ、証拠能力が否定されないか。

(1)同項の趣旨は、知覚記憶表現叙述の各課程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では真実性のテストをすることができないため、その証拠能力を否定し誤判防止を図る点にある。そうすると、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②その供述内容の真実性を立証するために用いられる証拠である。②は要証事実との関係で相対的に決せられる。

(2)本件ICレコーダーは取調室での甲の自白を内容とし、公判廷外の供述を内容とする(①)。そして、本件では甲は「何も言いたくない。」と陳述し、自白内容を否定していることから、争点は自白内容である賄賂の供与である。また、立証趣旨は甲の乙に対する賄賂800万円の供与となっている。よって、賄賂800万円の供与を証明すれば争点にも役立つため、立証趣旨が要証事実となる。そうすると、甲の乙に対する賄賂の供与を録音した本件ICレコーダーは甲の供述内容の真実性を立証するために用いられるといえる(②)。以上から、本件ICレコーダーは伝聞証拠である。

2.もっとも、伝聞例外(322条1項)該当性があり、小効力が例外的に認められないか。

(1)ICレコーダーも記録媒体であるから「書面」が準用されるといえる。また、それには「被告人」甲の「供述」が「録取」されている。そして、本件ICレコーダーの内容は上記の者であり、「不利益な事実の承認を内容とする」といえる。もっとも、「署名若しくは押印」がないため伝聞例外に該当しないのか。

 ア、同要件が要求される趣旨は、供述録取書を録取する人の上記伝聞課程を解消させる点にある。そうすると、機械的に録取する場合は同要件を必要としない。

 イ、本件では、ICレコーダーによる録取がされている。よって、機械的な録取といえ、同要件を要しない。

(2)以上から、伝聞例外要件を満たし、証拠能力が認められる。

第3.違法収集証拠排除法則について

1.同法則の前提として、本件録取は「強制の処分」(197条1項但書)にあたり、法律の根拠規定を要しないか。

(1)現行刑訴法の「強制の処分」は憲法33条、35条が保障する権利利益を制約する。そうすると、強制処分法定主義の厳格な手続は、それらと同等の権利利益にのみ及ぶと考えられる。よって、「強制の処分」とは、①相手方の意思に反し、②身体住居財産等の重要な権利利益に対する実質的制約を伴う処分をいう。

(2)Kは甲に対し録音を告げておらず、このような状況での録音は対象者の意思に反する(①)。もっとも、会話の一方が録音する場合、他方の会話内容は一方に委ねられているため、会話内容の秘密は重要な権利利益とは言えない。よって、「強制の処分」とはいえない。

2.もっとも、任意処分であっても多かれ少なかれ本件では甲のプライバシーが侵害される。そこで、捜査比例の原則(197条1項本文)が適用され、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況の下で相当といえる限度で許される。

 本件ではKは甲が乙を接待しているという贈賄が起こりうる情報を手に入れている。その中で平成25年12月24日、800万円がA社名義の口座から引き出され、翌日に乙が新車を購入したことが判明している。新車購入はそうあることではないから、新車は供与された賄賂800万円で支払ったのではないかと推認される。そうすると、甲の一時的に供述した言葉を録音し、確実な証拠として残す必要性が高かった。

 一方で、甲はKという見知らぬ司法警察員に会話を暴露している。このような他人との会話内容の秘密は外部に漏れかねないものであり、法保護性が低い。また、会話内容は贈賄の暴露であり不法性が高い。よって、甲のプライバシー侵害の程度は低い。

 以上から、具体的状況のもと相当な録音だったから、本件録音は適法であり、違法収集証拠排除法則の適用の基礎を欠き、証拠能力は否定されない。

以上。