娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H26刑法

第1.甲の罪責

1.甲がVに仏像を引き渡させた行為について詐欺罪(刑法(以下略)246条1項)が成立しないか。

(1)「欺」く行為とは、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいう。

 本件では、「金は持ってきた」「鑑定人が待っている」という点を甲は偽っている。甲が2000万円を用意しておらず鑑定人もいないのであれば、Vは甲が仏像を奪って逃走すると考え交付をすることはなかった。よって、甲は上記事項を偽ったといえ、「欺」く行為があったといえる。

(2)「交付」とは、錯誤に基づいて財物の占有を移転させることをいう。

 本件では、Vは代金を受け取り損ねることはないだろうと考えており、甲が代金を用意していると勘違いしており錯誤がある。これに基づいて甲に仏像を引き渡している。この引き渡しは甲の言うホテルの近くの喫茶店にいる鑑定人まで持っていくことを許容するものである。仏像をもってホテルを出てしまえば甲がそのまま車で逃走することも可能であるため、ホテルを出ることを許容する本件引渡しは占有を移転させる「交付」といえる。

(3)禁制品であっても適正な手続きによらなければ占有を奪われないという範囲で財産犯からの保護に値する。よって、「財物」に禁制品も含まれる。

 本件でも仏像は密輸入されており禁制品であるが、「財物」である点に問題ない。

(4)故意(38条1項本文)とは構成要件該当事実の認識・認容である。

 本件では甲は仏像を交付させすきを見て逃走することを計画しており、詐欺罪に該当する事実を認識していた。よって、故意があるといえる。

(5)以上から、甲に詐欺罪(a)が成立する。

2.甲がVの腹部をナイフで刺した行為について2項強盗殺人未遂罪(243条、240条、236条2項)が成立しないか。

(1)「暴行」(同1項)とは、犯行抑圧程度の不法な有形力の行使である。

 本件では、甲はナイフという鋭利な凶器を腹部という身体の重要部分に刺している。また、後述の通り甲・Vには年齢差・体格差がある。そうすると、腹部をナイフで刺すという本件有形力行使は客観的にVの犯行を抑圧する程度だったといえ、「暴行」といえる。

(2)処罰範囲を限定する見地から、「財産上不法の利益を得」(同2項)たといえるには具体的かつ現実的な利益移転を要する。

 本件では、甲は国外逃亡している。重傷を負ったVが国外逃亡した者を捕まえて仏像の返還請求をすること自体、相当困難であるといえる。よって、具体的・現実的な利益移転があったといえ、甲は「財産上不法の利益を得」たといえる。

(3)240条の趣旨は刑事学的に顕著な死傷結果を生じさせる強盗を犯罪類型化する点にある。そうすると、殺意のある場合も「死亡させた」に含まれる。

 本件でも、甲はVに殺意を持って腹部を刺しているが同条が適用される。もっとも、Vは一命をとりとめており、「死亡」とはいえない。よって、未遂(243条)にとどまる。

(4)もっとも、本件では先に乙が甲にナイフで襲ってきたのであり、甲の上記行為には正当防衛(36条1項)が成立しないか。

 ア、正当防衛の正当化根拠は緊急行為性にある。そうすると、①違法行為によって侵害を招致し、②侵害が侵害招致行為を大きく超えない場合は正当防衛が成立しない。

本件では、Vがナイフを甲の首元に近づけたのは、甲が逃げないようにするためである。甲が逃げようとしているのは自らの詐欺行為を理由とする。よって、Vの侵害は甲の違法な行為に招致された(①)。もっとも、禁制品である仏像を交付させる行為と甲の生命を侵害する行為では、後者の方が圧倒的に重い法益を侵害する行為である。よって、侵害が侵害招致行為を大きく超え、本件自招侵害は正当防衛の妨げにならない。

 イ、「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現在市又は間近に押し迫っていることを言う。

 本件では、ナイフという鋭利的凶器が首という枢要部に近づけられており、甲の生命・身体に違法な法益侵害が押し迫っていた。よって、「急迫不正の侵害」といえる。

 ウ、「防衛するため」といえるには、防衛の意思が必要である。防衛の意思とは急迫不正の侵害を認識しつつそれを避けようとする単純な心理状態をいう。

 本件では確かに甲は仏像の返還又は代金支払を免れる意思があったため、攻撃的な意思もあった。しかし、ナイフで刺されるということも認識し、自分の身を守る意思もあった。そうすると、専ら攻撃の意思に基づく行為だったとはいえず、未だ単純な心理状態といえる。よって、「防衛するため」といえる。

 エ、「やむを得ずにした」とは、防衛行為の必要性・相当性をいう。

 本件では、確かに「痛い目を見るぞ。」と興奮気味のVに対して反撃するには、腹部を刺して行為に及べなくする必要があった。しかし、甲は28歳、身長178cm、82kgと68歳、160cm、53kgのVよりも若く体格もいい。そうすると、ナイフを奪った上で15cmもあるナイフで刺す必要はなく、奪って遠くに投げるだけで良かったといえる。よって、相当性があるといえない。

 オ、以上から、過剰防衛(同2項)が成立し、2項強盗殺人罪(b)が成立した上で刑が任意的に減免される。

3.罪数

 甲にはabが成立し、併合罪(45条前段)となる。

第2.乙の罪責

1.乙が仏像を保管した行為について、盗品等保管罪(256条2項)が成立しないか。

(1)本件仏像は甲の詐欺財によって取得されたため、「財産に対する罪に当たる行為によって取得された物」(同1項)といえる。

(2)同罪の保護法益は追求権にあることからすれば、途中で盗品等であることを知ったとしても「保管」にあたる。

 本件では、乙は甲から電話で事情を打ち明けられており、途中で盗品等であることを知っており、「保管」といえる。

(3)以上から、盗品等保管財(c)が成立する。

2.乙が仏像を売却した行為について横領罪(252条1項)が成立しないか。

(1)仏像は甲から保管を依頼された物であり、「自己の占有する他人の物」である。

(2)「横領」とは、不法領得の意思を発現する一切の行為である。不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう。

 本件では、乙は仏像を50万円で売っている。売却は所有権を相手に移転させる行為であるから、所有者でなければできない。よって、「横領」といえる。

(3)以上から、横領罪(d)が成立する。

3.罪数

 以上から、cdが成立し、cdは併合罪となる。

以上。