娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

中大2018刑訴

第1.①について

1.①は準現行犯逮捕(刑事訴訟法212条2項)であるといえないか。そうであれば甲は「現行犯人」(213条)であり、①は適法である。本件では212条2項1号ないし3号に該当する事情はない。もっとも、Kらが「こんばんは。どうしましたか。」と甲に声をかけたところ、甲は突然逃げ出しており、「誰何されて逃走しようとする」(同4号)といえる。では、「罪を行い終わつてから間がないと明らかに認められるとき」(同柱書)といえないか。

(1)現行犯逮捕の趣旨は、犯罪の嫌疑が明白で逮捕の必要性が高い一方で、その明白性から誤認逮捕の恐れがないため令状主義(憲法33条、刑事訴訟法199条1項)の例外を認める点にある。そうすると、「罪を行い終わつてから間がないと明らかに認められる」とは、①犯罪と、②犯人の明白性を言う。時間的場所的接着性はこれらの重要な考慮要素である。

(2)Vからの被害申告があり、犯罪は明白である(①)。また、本件では、事件発生時刻である平成29年4月26日午前1時30分から15分しかたっていない同日午前1時45分、事件現場から50メートルしか離れていない路上において、甲は被害品であると思われる長財布から現金を別の財布に移動させるという怪しい行動をしている。また、甲はニット帽・紫色の髪で短髪、左手に血がついているという特徴は全てVの証言と一致するため、甲が犯人であることが強く推認される。よって、甲の犯人性は明白である(②)。よって、「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる」といえる。よって、①は適法である。

第2.②について

1.①の適法性から、本件では「現行犯人を逮捕する場合」(220条1項柱書)といえる。もっとも、本件では路上で逮捕した甲をバーDに連れ込んで財布を差し押さえているが、これは「逮捕の現場」(同2号)といえないのではないか。

(1)同号の趣旨は、逮捕現場においては証拠存在の蓋然性があるため、令状主義の例外を認める点にある。もっとも、逮捕者の身体・所持品については、場所を移動してもそのような蓋然性は変化しない。また、刑訴法の強制処分では付随措置を合わせて可能ある。よって、①逮捕者の身体・所持品についての捜索・差押えであり、②その場での捜索差押が不適当である場合、③直ちに捜索・差押えに適する最寄りの場所に逮捕者を連行しこれらを失時することは「逮捕の現場」における捜索差押と同視でき、適法である。

(2)本件では、甲の所持品である財布についての差し押さえであり(①)、3人の男性からの抵抗を排除する必要性がありその場での捜索・差押えは不適当であった(②)。また、バーDという落ち着いた場所は捜索差押に適する場所である(③)。

2.以上から、令状によらない捜索差である②は適法である。

以上。