娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

中大2018刑法

第1.設問1

1.甲の覚せい剤取得行為には詐欺罪(刑法246条1項)が成立しないか。

(1)「欺」く行為とは、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることを言う。本件では、甲は乙に対して528号室にいない覚せい剤の買主を、いると偽っている。買主がいなければ乙は甲に覚せい剤を528号室までもっていくことを許可しなかったため、交付の判断の基礎となる重要事項が偽られており、「欺」く行為といえる。

(2)確かに覚せい剤は法禁物であり、その占有は保護に値しないものであるから「財物」と言えないとの異説はある。しかし、適正手続によらなければ占有を侵害されないという点で法禁物も保護に値するから、覚せい剤も「財物」といえる。

(3)確かに本件では、乙は甲に対して603号室から1階下の528号室までしか覚せい剤の持ち出しを許諾したにすぎず、終局的な占有の移転がないため、「交付」といえず、甲がしたのは乙の意思に反する占有移転であり「窃取」(235条)にすぎないとの異説が想定される。しかし、2017年2月9日はホテル内に宿泊客はおらず、フロアはひっそりとしていたため、甲が目撃者を気にすることなく603号室を出た時点でそのままホテルを出てしまうことも可能であった以上、部屋を出ることを許諾した時点で占有の終局的移転があり、「交付」といえる。

2.以上から、詐欺罪が成立する。

第2.設問2

1.乙がジュラルミンケースを奪ったことについて、強盗罪(236条1項)が成立しないか。

(1)「暴行」とは、犯行抑圧程度の不法な有形力行使である。本件では乙は15cmも長さのあるナイフを使って甲の身体に示しており、身体への危険を示している。また、顔面という重要な部位である頭部に近い部分を強く殴って倒れさせて身動きができないようにしている。身動きができなければ相手方に意思を制圧される度合いが大きい。以上のことから、犯行抑圧程度の有形力行使があったといえ、「暴行」といえる。

(2)上記のように占有は甲に移転しているため、「他人の財物」(242条、236条1項)といえる。また、ジュラルミンケースをBホテル街に持ち出しており、「強取」といえる。

2.以上から、強盗罪が成立する。

以上。