娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H23刑事訴訟法

第1.設問1

1.本件では、捜索差押許可状の「罪名」(刑事訴訟法(以下略)219条1項)として、「覚せい剤取締法違反」という記載のみで、被疑事実である譲渡に関する記載がない。このような概括的記載であっても「罪名」が特定(同項)されているといえるか。

(1)同項の趣旨は、裁判官の実質的認定を確保し、無差別的な捜索差押えがされることによる不当な人権侵害を防止する点にある。そうすると、原則としては法令の記載だけでは「罪名」を特定したことにはならない。しかし、特別法は刑法にない罪を罪の種類ごとに類型化したものだから、特別法違反の事実さえ令状に記載されていれば、裁判官の認定・無差別的な捜索差押えの防止という目的は達成できる。よって、特別法の場合は、特定の特別法違反の記載があれば、例外的に「罪名」を特定したことになる。

(2)本件でも、原則として特定がない。しかし、「覚せい剤取締法違反」という特別法違反の事実が記載されている。よって、例外的に「罪名」を特定しているといえる。よって、罪名の記載は適法である。

2.本件では、「差し押さえる得るべき物」(同項)の中に「その他…一切の物件」という部分があり、物が特定されていないといえないか。

(1)同項の趣旨は上記の者である。よって、物を概括的に記載することは原則として特定性を欠き、許されない。もっとも、捜索差押えは捜査の初期段階で行われることが多く、厳密な認定を裁判官に求めるのも酷といえる。そこで、①具体的例示に付加する形で、②被疑事実と関係することが明らかな物について、③例示物件に準じる物件を指すことが明らかな場合は特定性を認めることができると考える。

(2)本件では、「金銭出納簿、預金通帳、日記、手帳、メモ」という5つの具体的な差し押さえるべき物を上げており、概括的記載はそのあとに続いている(①)。また、「その他本件に関係ありと思料される」という記載から、覚せい剤取締法違反事件に関係する事件との結びつきを求めているから、被疑事実と関係するとこが明らかといえる(②)。そして、上記5つの物件は「文書及び物件」というカテゴリーに入ることから、「文書及び物件」は例示物件に準じる物件を指すといえる(③)。よって、物は特定されており、上記記載は適法である。

第2.設問2

1.本件メモは218条1項、憲法35条1項の令状を経た場合に差し押さえることのできる物にあたるか。令状により捜査機関が差し押さえることのできる物の範囲が問題となる。

(1)令状主義(218条1項、憲法35条1項)の趣旨は、裁判官による事前の司法審査によって、不当な人権侵害を防止する点にある。そうすると、裁判官の審査した範囲で捜査機関は差押えをすることができる。裁判官は物と被疑事実との関係を審査するのだから、被疑事実と関連性のある物を差し押さえることができる。

(2)本件被疑事実は、平成23年7月1日における甲の乙に対する覚せい剤の譲渡である。そうすると、前日である6月30日における甲の丙からの覚せい剤の譲受けの事実が記載されたメモは、本件被疑事実を直接証明するものではないため、被疑事実と関係することはないため、差し押さえられないとも思える。しかし、6月30日は7月1日の前日であるため、譲り受けた覚せい剤を乙に譲渡した可能性がある。また、甲は丙から覚せい剤100gを250万円で買っていれば、それを10g30万円(100g換算で300万円)という利益を出すような価格で譲渡しているのではないかとの推認が可能である。そうすると、本件メモは本件被疑事実を推認させる事実である間接事実を証明する証拠として、本件被疑事実と関連性があるといえる。

2.以上から、警察官は本件メモを差し押さえることができる。