娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H23刑事実務基礎科目

第1.設問1

1.本件では、甲は逮捕後に自らはキャリーバッグを盗んでいないと主張しており、自白がない。他に直接証拠もないことから、間接事実の積み重ねで犯人性を推認する。

2.甲に不利な事実

 本件では、乙が電車を待つ間男が乙をうかがいながらホームをうろついていた。この男は乙をうかがうだけでなく電車にも乗ろうとしなかったのだから、この男が甲のバッグを盗むことを狙っていたものであり、犯人であると推認される。確かにこの男が甲であるとは限らない。しかし、甲の特徴は白髪、180cm、紺色のスーツを着ており、髪型、身長、服装がこの男と一致している。よって、特徴からこの男が甲であり、犯人であることを強く推認される。

 また、乙が甲に「おい、待て。」と声をかけたときに、甲は走り出そうとしているため、乙が犯人で逃走を図ろうとしたことが推認される。確かに乙が変な人に絡まれたから逃げようと思っただけの可能性もある。しかし、乙は待つように言われたにすぎず、それで走り出そうとするのは不自然である。また、「何の証拠があってそんなことを言うんだ。」と言い返してきており、攻撃的になっていることから、犯人性が相当程度推認される。

 そして、本件では丁が甲の携帯電話を鳴らしたところ、乙の持つカバンのポケットから音が鳴りだしている。これに対する弁解として甲は、「事務室まで届けに行こうとしていた」と新たな主張をしだしているため、甲が犯人と推認される。確かに本当に届けに行こうとしていた可能性もある。しかし、バッグが甲の者であるという証拠が出てきたとたんに乙は「あんたの物なら返す」と態度を急変させており、ここに不自然さが残る。よって、甲の弁解内容は甲の犯人性を相当程度推認する。

3.甲に有利な事実への反論

 本件では、乙とうろついていた男の距離は3メートルと離れており、スーツの生地について乙は観察していなかったし、カメラ1もそれをとらえていないため、上記特徴は重要でないとも思える。しかし、白髪・180cm、紺のスーツという3つの条件がそろうことはまれであり、甲が柄を観察していなかったことはさほど問題でない。

 本件では、階段から駅事務室までの最短距離である直線上で乙が甲に追いついている。そうすると、真に甲が事務室に向かっていたとも思える。しかし、同地点は改札口の近くでもあることから、甲は人の出入りを避けて脇によけていただけであると考えられる。よって、追いついた場所は甲が犯人である可能性を妨げない。

 切符に印字されたB駅での購入時刻は、午後0時55分であり、犯行時刻である午後2時25分と90分も差があるため、甲が犯人ではないとも思える。しかし、甲がA駅の改札を出ようとしていたのは午後2時台であり、B駅からA駅まで3分しかかからないことに照らして不自然である。これは、窃盗のチャンスを甲が狙っていたためと考えられる。よって、切符の時刻は甲に有利ではない。

第2.設問2

1.占有とは、物に対する事実的支配をいい、支配の有無は主観・客観から総合的に判断される。

 本件では、盗まれたバッグには車輪がついたキャリーケースであり、移動させやすい性質を有する。もっとも、重量自体は重いし、サイズも大きいことから、特性としては甲が離れたからといって支配が失われやすいとはいえない。また、置かれた場所がホームのベンチであり、人が荷物を置いて一時的に離れるような場所といえる。そして、バッグと売店の距離は15mで乙が反対方向に5m歩いたとしたら20mも離れたことになる。しかし、慌ててベンチにすぐに戻っている甲の行動から時間的に離れていないといえる。更に、売店がバッグへの見通しを遮断するものとも思える。しかし、甲がバッグを忘れたのは一瞬であることから、見通しが悪かったとしても支配が失われたとまでは言えない。

 以上から、乙のバッグに対する占有は肯定される。

2.故意とは構成要件該当事実の認識・認容であるから、窃盗罪(刑法235条)の故意とは、「他人の財物」を「窃取」することの認識・認容である。

 本件では、甲には置き引きの前科があるため、ベンチにバッグがあれば他人の物であることを認識できる。このような推認も合理的であり、不合理な前科証拠による推認ではない。よって、「他人の財物」である認識があった。

 また、本件では、甲は弁解内容の中で親切心から駅の事務室に向かったと主張している。しかし、甲は乙を観察しており、甲がバッグを占有していることを認識していた。その甲がバッグから離れたタイミングを見計らったかのように一瞬でバッグを運んでおり、甲の占有を排除し、バッグを自己の占有に移す認識を持っていたといえる。よって、「窃取」の認識もあった。

 以上から、窃盗の故意もあったといえる。

以上。