中大2018商法
第1.(1)
1.①について
甲社の定款には、「当社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を要する。」との定めがある。そうすると、甲社の株式は、甲社が「譲渡による…株式の取得について」甲社の「承認を要する旨の定めを設けている」(会社法2条17号)といえるため、甲社の株式は「譲渡制限株式」といえる。本件では、Bは本件甲社株式100株の譲渡につき取締役会の承認(139条1項)を得ていないため、134条柱書但書1号、同2号の適用はなく、133条1項は適用されない(134条1項本文)。よって、甲社はABが「共同して」(133条2項)名簿書換えを請求してきたとしても、甲社はABの求めに応じる必要はない。
2.②について
甲社の定款には上記定めがあるため、「その発行する全部…の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けてい」(2条5号)るといえるため、甲社は会社法上の「公開会社」に該当しない。
第2.(2)
1.まず、本件取引が競業取引(356条1項1号)にあたらないか。QはP社の「取締役」であり、本件取引はP社の「事業の部類に属する」(同号)といえる。では、QはR社の代表者として本件取引をしているが、「第三者のために」といえるか。
(1)同号の趣旨は、取締役は会社の業務について強大な権限を有し、業務の秘密にも通じているため、取締役がその地位を濫用し、会社が得るはずの利益を取締役が奪い会社に損失が生じることを防止する点にある。そうすると、「ために」とは、計算でとの意味である。
(2)本件取引は「事業の部類に属する」から、R社がP社の得るはずだった利益を得ることになる。よって、R社の計算で本件取引がされたといえるから、R社という「第三者のために」といえることになる。よって、本件取引は競業取引に当たる。
2.本件取引の効力をP社は争えるか。本件ではP社の承認機関の承認を得ておらず、356条1項柱書違反がある。そこで、同柱書違反の競業取引の効力が問題となる。
(1)同1号の趣旨は上記のものである。もっとも、競業取引を無効としても会社の利益は回復されない。よって、競業取引の場合に同柱書違反があっても取引は無効とならないと考える。
(2)本件でも本件取引は有効であるため、P社は効力を争えない。
3.P社は423条2項によって損害額を推定した上、同1項の賠償請求をしていくことはできる。
以上。