娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H25刑事実務基礎科目

1.勾留の要件は、①「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法(以下略)207条1項、60条1項柱書)、②同各号該当事由、③勾留の必要性(87条1項)である。

2.①について

(1)本件では、Vが目を覚ますとXが箱ごと無くなっていたのであり、前日に酒を一緒に飲んでいた甲を含む2人の中の誰かが、Vが寝ており部屋にいる盗みやすい状況を利用して、Xを盗んだことが考えられる。その中でも特に甲は、被害発生日である平成25年(以下略)2月27日午前10時にはXをリサイクルショップに売っている。そうすると、Xがなかなか手に入りにくいヒット商品であったことからして、甲がXをV宅で盗んだ犯人であると強く推認される。確かに甲が売ったのはV所有ではないXであるかもしれない。しかし、提出を受けたXの中にはVの撮った写真が残されていたため、ほぼ間違いなくV所有のXといえる。なお、Vの証言は写真がインターネットに公開されていることによって、正しさが担保されている。

(2)また、本件では防犯ビデオの画像を確認したところ、2人以外の人の出入りがなかったため、この中の2人が盗んだ可能性が認められる。その中でも特に甲は、たばこを吸うことを理由としてAを一人で帰らせている。そうすると、このときカメラを盗む用事があったため、一人で帰る方が好ましかったのではないかといえる。確かに甲はAと帰ったと主張するため、そうなればカメラを盗んでいないとも思える。しかし、Aのこの供述はカメラの画像に移った5分遅れて帰った甲と明らかに矛盾する発言であり、このような供述をする甲は犯人であると強く疑われる。

(3)そして、本件ではXから甲の指紋が検出されている。これは甲のXがしまってあった机付近のテーブルから検出されたものと一致するにすぎない。確かに飲んでいる最中にVが見せびらかしたXを甲が触れただけであり、机から甲の指紋が出てこなかったとも思える。しかし、甲は指紋を消す等、証拠を偽装することもできたといえ、机から指紋が出なくても甲の犯行と矛盾しない。

(4)本件では、メモリーカードが甲逮捕時に運転していた車から発見されており、甲がショップにXを売る際に邪魔になってダッシュボードにメモリーカードを保管していたのではないかと考えられる。確かに4台存在するZ社の車を代表者1名、従業員3名が利用するため、甲がいれたものではない可能性もあると思える。しかし、登録番号が甲の使用する車と完全に一致する旨代表者が供述しており、メモリーカードは甲がダッシュボードに入れたと推認できる。よって、上記事実は甲の犯人性を相当程度推認する。

(5)また、確かにマンションの住人が盗んだ可能性もある。しかし、甲は普段から施錠していたのであり、それは習慣になっていたといえるため、その日だけ玄関が空いていたということは中から甲がカメラを持って出たことを推認させる。

(6)以上から、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」がある(①)。

3.②について

(1)甲は一応T市内のアパートに住んでおり、「定まった住居を有」するため、60条1項1号には該当しない。

(2)本件では、甲は他の窃盗事件の有罪判決の執行猶予期間中のみであり、この刑の執行を避けるために例えばXの製造番号が書かれた保証書を隠滅するということが考えられる。

よって、「罪証を隠滅する」(同2号)客観的・主観的可能性が認められる。

(3)また、確かに借金があるし、結婚歴もないことから「逃亡」の動機・容易さが認められる。しかし、Z社で営業の仕事をしていること、従業員は3人であることから、仕事に支障をきたすことを避けると考えられるため、「逃亡」することは考えにくい。よって、3号該当事由は認められない。

(4)以上から、各号該当事由(2号)が認められる(②)。

4.③について

(1)勾留の必要性は、必要性と被疑者の不利益を比較衡量して判断する。

(2)本件では、確かに兄弟がいないことから65歳と高齢の母親の身体を気遣うことができるのは甲のみである。また、上記のようにZ社には営業上の不利益も生じる。しかし、盗まれたXは30万円と高額だし、希少価値も高い。被疑事実も窃盗であり、重罪である(刑法235条参照)。よって、必要性は高いといえる。以上から、勾留の必要性が認められる(③)。

5.したがって、Jは甲を勾留すべきである。

以上。