娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H25商法

第1.設問1

1.AはAの取締役の地位を解任する議案を可決する決議を取り消す(会社法(以下略)831条1項)ことはできないか。

(1)AはY社の株式の15%を有する「株主」(同柱書)である。よって、本件総会の日である平成24年6月29日から「三箇月以内に」訴えを提起すれば訴訟要件は満たす。

(2)本件ではBがAの質問に対して質疑を打ち切っており、取締役の説明義務(314条本文)は果たされなかったといえ、「決議の方法が法令…に違反し」たといえないか。まず、314条但書、会社法施行規則71条各号の事由はないといえるため、説明義務は発生している。よって、314条前段の「必要な説明」の程度が問題となる。

 ア、同前段の趣旨は、株主総会で株主が議決権を行使する際の判断材料を取締役が提供する点にある。そうすると、平均的な株主が議案について議決権を行使できる程度の明確な回答があれば「必要な説明」といえる。

 イ、本件では、BはAが解任される理由の質問に対し、「あなたもわかっているはず」と決め打ちするような回答をしており、これでは平均的な株主は判断に迷うといえる。よって、「必要な説明」がなく、「決議の方法が法令…に違反し」たといえる。

(3)Aの解任理由をBが告げていれば、決議は否決された可能性もある以上、「決議に影響を及ぼさないもの」(831条2項)とはいえず、裁量棄却もない。

(4)以上のようにAは本件総会の決議を争える。

第2.説問2

1.AのY社に対する会計帳簿閲覧請求権(433条1項、2項柱書)は認められるか。まず、AはY社の株式の15%を有するため、「発行済株式の百分の三…以上の数の株式を有する株主」(同1項柱書)といえる。そして、Aは本件交換比率の妥当性を検討するためという「理由」を示している。もっとも、AはY社と「実質的に競争関係にある事業を営」(同2項3号)むものといえ、例外的に請求が認められないのではないか。

(1)同号の趣旨は、閲覧請求者に会社の機密が明かされることによって、会社に損失が加わることを防止する点にある。そうすると、競争関係にあるものと同視できる存在も「実質的に競争関係にある事業を営」むものといえる。

(2)本件では、Y社は日本国内で新築マンションの企画・販売等を行う会社である。そして、Z社は関東地方で住居用中古不動産の販売を行っている。そうすると、マンションという目的物を関東地方で販売するという限度で市場が競合しているといえ、Y社とZ社は競争関係にあるといえる。Z社の67%はAが保有しており、AはZ社の大部分をコントロールできる(309条2項参照)から、Z社と同視できる。よって、Aは「実質的に競争関係にある事業を営」むといえ、請求権は発生しない。

2.もっとも、Aは交換比率の妥当性を検討するという意思を持っているのであり、競業に利用するという主観的意図はないため、例外的に請求が認められないか。

(1)433条2項3号の上記趣旨から、3号に該当するには客観的に競業関係があれば足り、主観的な意図は不要と考える。

(2)本件でも、上記Aの意図は同3号該当性に影響を及ぼさない。

3.以上から、Aの請求は認められない。

第3.設問3

1.①について

 AはY社の株式交換を差し止める(784条の2柱書本文)ことができるか。Aは上記のようにY社の株主であり、「消滅株式会社等の株主」といえるため、原告適格を有する。また、株式交換がされれば本来10株につき3株を交付するのが妥当なところを1株が交付されることになり、3分の1の株式価値の希釈が生じることになる。よって、「不利益を受けるおそれ」はある。ここで、本件総会の株式交換契約の承認部分が取り消され(831条1項)、遡及的に決議が無効となる(839条反対解釈)結果、783条1項違反となり、「吸収合併等が法令…に違反する」(784条の2第1号)といえないか。X社が「特別の利害関係を有する者」(831条1項3号)といえるかが問題となる。

(1)同号の趣旨は、株主総会の決議の公正さを確保する点にある。そうすると、「特別の利害関係」とは、何らかの意味で株主としての地位を離れた個人的利害関係をいう。

(2)本件では、X社は株主交換完全親会社であり、単なる株主とは異なる立場で議決権を行使すると考えられる。そうすると、個人的利害関係があるといえ、X社は「特別の利害関係を有する者」といえる。

(3)以上から、本件総会の株式交換契約の承認部分の可決部分は取り消され、783条1項違反があるから784条の2第1号を満たす。

(4)以上から、Aは株式交換を差し止めることができる。

2.②について

  Aは株式交換無効の訴え(828条1項11号)を提起することが考えられる。Aは「株主」(同2号11号)であり、「株式交換の効力が生じた日から六箇月以内」(同1項11号)に、Y社を被告として(834条11号)、「訴えをもって」(同柱書)提起できる。

 もっとも、「無効」の程度はどの程度が必要なのか。

(1)株式交換を無効とすると株式を手に入れた者の期待を裏切ることになり、法的安定性を著しく害する。上記出訴期間、原告適格もその趣旨である。よって、重大な瑕疵のみ「無効」事由となると考える。

(2)本件瑕疵は交換比率である。交換比率は当事者同士で決せられるものであり、裁判所の後見的判断になじまない性質を有する。また、株式交換に反対する株主は株式買取請求を会社に対してすることができる(785条1項)ため、投下資本は回収できる。よって、交換比率の瑕疵は重大と言えず、「無効」事由にあたらない。

(3)以上から、同訴えは棄却される。

以上。