娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H26商法

第1.設問1

1.本件では、X社の取締役のBが株式の90%を有するY社がX社へ5億円の金融をする際に、Bが取締役会に出席している。ここで、Bが「特別の利害関係」(会社法(以下略)369条2項)を有し、取締役会が無効となる結果借り入れも無効とならないか。

(1)同項の趣旨は、決議内容の決定について取締役の忠実義務(355条)の履行が期待できないときにその者を排除し、決議の公正を確保する点にある。そうすると、「特別の利害関係」とは、会社の利益と相反する個人的利害関係をいう。

本件では、X社がY社から5億円を借り入れれば、X社はBが金融機関から借りたときよりも上乗せされた金利を返還することになる。そして、BはY社の90%もの株式を有するため、Y社を通じてX社からの上乗せされた分の金利分の利益を得ることができる。よって、本件金融には強い利害関係を有し、「特別の利害関係」を有する。

(2)そして、「特別の利害関係」を有する取締役が出席した決議は法の一般原則から無効である。もっとも、法的安定性の見地からその者が出席しても決議に影響がなかった特段の事情があれば例外的に有効である。

 本件では、取締役5名の出席があり、Bが出席しなくても4名-1名=3名の出席によって「過半数」(369条1項)を得られた。よって、上記特段の事情があり、有効となる。

(3)よって、本件金融も有効であるとも思える。

2.もっとも、本件金融は利益相反取引(356条1項2号、3号)に当たり、効力が否定されないか。

(1)実質的利益帰属を問題とする同3号との関係で、「ために」とは名義でという意味だと考える。

 本件では、BはY社の代表権のない取締役であり、Bが当事者として行動したわけではないからY社の名義で行動していない。よって、Y社の「ために」といえない。

(2)同3号の趣旨は、取締役が会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ることを防止する点にある。取引の安全を図る必要もある。そこで、取締役に利益が帰属することを「利益が相反する取引」といい、それは外形的客観的に判断されると考える。

 本件では、上記のようにBはY社を通じて上乗せされた金利分の利益を得ることができるため、本件金融は「利益が相反する取引」といえる。

(3)そうすると、X社は公開会社であるから取締役会設置会社(327条1項1号)といる以上、取締役会で(365条1項)「重要な事実」(356条1項柱書)を開示する必要があった。それにもかかわらず、Bは上記金利を得ることができることをX社の取締役会において説明しておらず、上記開示はされていない。よって、365条1項、356条1項柱書違反がある。同柱書の趣旨は会社の利益保護にあるため、同柱書違反の利益相反取引は無効である。もっとも、取引安全の見地から会社が相手方の悪意を主張立証して初めて無効となる。

 本件では、Y社の90%の株式はBが有する。よって、Y社とBを同視できることから、Y社もBと同様悪意だったといえる。よって、借り入れは例外的に有効である。

第2.設問2

1.BはX社を被告として(834条2号)、新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起することが考えられる。BはX社の51000株を有する「株主」(同2項2号)であり、本件新株発行は決定の平成26年2月上旬の後であり、Cは同月下旬に新株発行の内容を知るに至っていることから、「六箇月以内」(同1項2号)ともいえる。よって、訴訟要件は満たす。

2.「無効」事由(同柱書)の前提として、本件新株の価格が「特に有利な金額」(199条3項)であり、X社が公開会社であったとしても株主総会特決議(201条1項、199条2項、309条2項5号)を要したのではないか。

(1)199条3項の趣旨は、新株発行により既存株主の株式価値が希釈されることを防止し、株主保護を図る点にある。そうすると、「特に有利な金額」とは、公正な価格と比較して特に低い金額をいう。

(2)本件では、新株発行時のX社の株式価格は一株1万円を下ることはなかったのであり、5千円という価格はこれの半分以下にあたる。そうすると、1万円と比較して特に低いといえ、「有利な金額」といえる。

(3)よって、株主総会特別決議を経なかったという瑕疵が本件にはある。

3.もっとも、新株発行を「無効」とすれば法的安定背を害する。会社法が上記訴訟要件を厳しく規定しているのもこの趣旨である。そうすると、「無効」事由は重大な瑕疵に限られる。

 新株発行は本来組織法上の行為であるが、授権資本制度の下会社の業務執行に準じ、取引上の行為といえる。そうすると、新株発行のための株主総会特別決議を欠いたとしても、それは会社内部の手続の欠缺にすぎず、重大な瑕疵ではない。よって、上記瑕疵は「無効」事由といえない。

4.以上から、Bの請求は棄却される。

以上。