娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H28民事実務基礎科目

第1.設問1

1.(1)について

(1)本件では、民事保全法(以下、民保)53条の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分と、民保25条の2の占有移転禁止の仮処分の2つの命令(民保2条1項)を行うことを裁判所に申し立てる(民保13条1項)ことが考えられる。

(2)仮に両手段をとらなければ、Yが訴訟継続中に第三者に登記を移転し又は占有を移転させた場合、Yは被告適格を失うからその第三者に訴訟承継をさせることを裁判所に申し立てる(民事訴訟法(以下、民訴)50条1項)必要性がXに生じることになる。前者の手段をとれば仮にYが訴訟継続中に第三者に登記を移転させたとしても、それは「登記の後にされた登記」(民保58条1項)に当たるから、Xはその者に対して登記を対抗できる。また、後者の手段をとりXが勝訴すれば、Yから第三者に占有が移転したとしても、62条1項各号に応じて甲土地について執行することができる。

2.(2)について

(1)被告は、原告に対し、甲土地について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(2)被告は、原告に対し、甲土地を明け渡せ。

3.(3)について

(1)イ[Aは、平成27年6月1日、Xに対し、甲土地を代金1000万円で売った。]

(2)ウ[Yは、現在、甲土地を占有している。]

第2.設問2

1.抗弁とは、請求原因と両立し、請求原因から発生する法律効果を障害・消滅・阻止する事実の主張である。

2.民法177条は、不動産物権の対抗要件を登記であることを定めている。これは、不動産が二重譲渡された場合に登記を先に具備したものが相手の所有権を失わせ、完全な所有権を獲得することを意味する。よって、本件では同条によりYはXよりも先に登記を備えており、完全な所有権を得た。このような対抗要件の具備はXの甲土地の所有権を障害させるものであり、抗弁である。

3.よって、QはYのために対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を主張すべきである。

第3.設問3

1.Yは、本件売買契約の際、本件第1売買契約について知っていた。

2.理由

 本件では、まずYは甲土地のX所有の事実を知りながら高値で買い取らせる目的を有していたとの主張をしている。これは「第三者」(民法177条)といえない主張である。

(1)同条の趣旨は自由競争を前提として物権変動につき登記よる公示を要求して、不動産取引の安全を図る点にある。そうすると、同条の「第三者」とは、当事者・包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう。自由競争を逸脱するような背信的悪意者はこのような正当な利益があるとはいえず、「第三者」にあたらない。

(2)背信的悪意者であるためには、①その者が物権変動について悪意であること、②背信性を基礎づける評価根拠事実が要件事実となる。オは高値で買い取らせる目的に関しての事実であり②の事実である。よって、エで①について主張する必要があり、XA間の物権変動、つまり本件第1売買契約について知っていたことを主張する必要がある。よって、上記事実が入る。

第4.設問4

1.Xに有利な事実

(1)本件では、甲土地の上に置かれている資材は大した分量ではなく、トラックが2台止まっているにすぎない。このように土地上の物をすぐ撤去できるようにしていたということは、甲土地をXに後から高値で買い取らせようとしていたのではないかいう背信性が推認できる。

(2)Yは平成27年9月1日、Xに対して2000万円という高値を具体的に提示してきた。よって高値で買い取らせる背信性が推認できる。

(3)本件念書が存在しており、その内容には利益が出ればAに3割が還元されることが示されており、Yの署名押印があることからYがその意思表示をしている。3割もの利益還元は相当大きなもうけが出ることを予想していたのではないかと推認できるため、本件念書作成当時にはXに高値で買い取らせる目的をすでに持っていたといえる。

2.Yに有利な事実への反論

(1)確かに本件では、Yは建築業者であるから資材置き場として甲土地を購入したとも思える。しかし、建築業者でも資材置き場という名目で甲土地を利用していることにして、更に利用価値の高い土地をXから支払われる2000万円で購入することも考えられる以上、建築業者であることは背信性があることと矛盾しない。

(2)確かに本件では、2000万円の額はXに提案されたに過ぎないとも思える。しかし、甲土地の時価は1000万円であり、2倍もの金額を示したことから正当な取引をしようとしていたとは考えられず、専らXの弱みに付け込もうとしていたといえる。よって、背信性が額から推認される。

(3)確かに本件では、甲土地を高く転売できれば謝礼がほしいといわれたにすぎずこの再XY売買をそもそも知らなかったとも思える。しかし、3割という額は上記のように不自然であり、AYが通謀した可能性もあるから、転売利益の額はYの悪意と背信性を一応推認する。

以上。