娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H28商法

第1.設問1

1.本件では、CがAの名義を代理方式ではなく機関方式で乙社に振り出している。また、Cに対する請求ではなく甲社に対する請求であり、手形法77条2項の準用する8条の適用ないし類推適用はできず、振出は無効である。もっとも、丙社の保護を民法110条によって図れないか。

(1)民法110条の趣旨は、虚偽の外観を作出した第三者に帰責性がある場合にそれを信頼した相手方を保護する点にある。よって、①外観、②本人の帰責性、③相手方の信頼があれば同条を類推適用できる。③については手形の流動性からして善意無重過失で足りる。

(2)本件では、「代表取締役A」とCによって手形が偽造されており、虚偽の外観が存在する(①)。また、AはCに用紙・印鑑を保管させていたという外観作出についての与因が存在する。そしてAは甲社の代表取締役であり甲社の帰責性が存在する(②)。もっとも、CがAの約束手形を振り出す権限があると信じるのは直接の相手方である乙者の従業員に限られる。丙社は被裏書人の立場にあるため、甲社にCが手形振出しの権限があるかについて確認すべき義務があった。それにもかかわらず丙社はそれを怠ったのだから、重大な過失があるといえる。よって、正当な信頼があるとは言えない。

2.以上から、甲社は丙社からの手形金支払請求を拒める。

第2.設問2

1.効力発生前について

 Dは甲社と丙社の吸収合併を差し止められないか(784条の2)。

(1)本件株主総会が取り消さ(831条1項)れれば、決議が遡及的に無効となる(839条反対解釈)結果、「吸収合併が法令…に違反する」(784条の2第1号、783条1項)といえる。本件ではCの議決権行使が「決議の方法が法令…に違反」(831条1項1号)するといえないか。CがA死亡(民法882条、896条1項)によって準共有状態(民法898条、264条本文)にある800株を行使しており、甲社が106条但書の同意しているとも思えるため問題となる。

 ア、106条本文は会社の事務処理便宜のために民法264条但書にある「特別の定め」を規定した点にある。そうすると、106条但書の適用においては民法264条本文の原則に戻ることになる。議決権の行使は株式の性質を変えない程度の「管理」(民法252条)にあたるから、行使時に過半数の同意が必要である。

 イ、本件では、CDEは口も利かなくなっていたのだから、とうてい過半数の合意がされたとは言えない。よって、甲社は106条但書の同意は無効である。よって、106条本文違反があるから、「決議の方法が法令…に違反」するため、本件総会決議は無効である。よって、「吸収合併等が法令…に違反する」といえる。

(2)Dは「株主」といえるか。確かにDは800株の準共有者であるから、上記の通り106条本文の通知がない本件では、原則「株主」とは言えない。しかし、本件決議は準共有された800株の行使が前提となっており(783条1項、309条2項11号参照)、106条本文の通知がされたことが前提となっている。それにもかかわらず通知がないとしてDの原告適格を否定することは、甲社の矛盾挙動であり、信義則(民法1条2項)に反する。よって、例外的にDは「株主」といえる。

(3)Dは吸収合併に不服であり、「不利益を受けるおそれ」は十分にある。

(4)以上から、吸収合併差止め請求が認められる。また、民事保全法23条の2の仮地位仮処分にもよるべきである。

2.効力発生後について

Dの吸収合併無効の訴えは認められるか。Dは上記のように甲社の株主であり「株主」(828条2項7号)である。よって、「訴えをもって」(同1項柱書)、「六箇月以内」(同2項7号)に甲社を被告とすべき(834条7号)である。

 もっとも、「無効」(828条1項柱書)といえるか。

(1)吸収合併は会社の権利義務一切を他の会社に承継させる(2条27号)ものであり、それを前提に新たな法律関係が積み重なっていく。また、上記原告適格、出訴期間を限定した趣旨にも配慮すべきである。法律関係安定の確保のために重大な瑕疵のみ「無効」事由といえる。

(2)上記のように本件株主総会は遡及的に無効となり、783条1項違反がある。783条1項の株主総会は特別決議を要する(309条2項12号)ため、これを欠くのは重大な瑕疵といえる。よって、「無効」事由があるといえる。

(3)以上から、Dの上記訴えは認容される。

以上。