娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2014刑法

1.甲が新聞3冊を持ち去った行為について、窃盗罪(刑法235条)が成立しないか。

(1)新聞3冊はS駅の効果ホーム上の売店の所有物であり、「他人の物」といえる。

(2)「窃取」とは、占有者の意思に反し、財物を自己または第三者の占有に移すことをいう。

 本件では、占有者である売店の店員の意思に反し、新聞3冊をもって甲は売店から速足で遠ざかるように歩いて行った。付近には店員や乗客がいなかったため、売店から遠ざかればすぐに甲は新聞に対する事実的支配を得るといえ、本件では新聞3冊は甲の占有に移ったといえる。よって、「窃取」といえる。

(3)故意(38条1項本文)とは、構成要件該当事実の認識・認容をいう。

 本件では、甲は代金を支払わずに新聞を取得する音にしており、窃盗罪の構成要件該当事実の認識・認容があるため、故意が認められる。

(4)よって、甲には窃盗罪(a)が成立する。

2.甲がAに新聞を投げて死亡させた行為について、事後強盗致死罪(238条、240条後段)が成立しないか。

(1)甲には窃盗罪が成立するため、「窃盗が」といえる。

(2)甲は「そのままだと追いつかれるのも時間の問題だ」と考えているため、Aによる現行犯逮捕を免れようとする意志があり、「逮捕を免れ」る「ために」といえる。

(3)事後強盗罪の趣旨は、所定の目的で行われる「暴行又は脅迫」が強盗罪(236条1項)の「暴行又は脅迫」と同視できることから、事後強盗罪を強盗罪に準じることを定めた点にある。そうすると、「暴行」(238条)とは、①窃盗の機会における、②犯行抑圧程度の不法な有形力行使をいう。

 本件では、甲はホームから階段を降り始める際に新聞を投げている。窃盗が行われたのは、同一のホームの売店であり、少なくとも窃盗の継続的延長上での行為といえる。よって、窃盗の現場(①)といえる。確かにホーム上で新聞を投げれば、相手方をホームに転落させることもありうる。しかし、新聞それ自体は紙という軽いものであり、当たってもいたくないものであるため、藩王抑圧程度の有形力腰があったといえない。

(4)よって、甲には強盗致死罪は成立しない。

3.甲がAを死亡させた行為について、傷害致死罪(205条)が成立しないか。

(1)「傷害」とは、人の生理機能を侵害することをいう。

 本件では、甲はAに新聞を投げるという有形力行使である「暴行」(208条をすることで、Aを即死させており、Aの生理機能を侵害しているため、「傷害」といえる。

(2)また、Aは「死亡」している。

(3)もっとも、ホーム上には退避スペースがあり、Aがここに入ればAは死亡しなかったため、新聞を投げた行為とAの死の因果関係は否定されないか。

 ア、因果関係とは、処罰の適正を図るものであるため、判断基底に限定を加えず、行為の危険が結果に現実化したかで判断される。

 イ、ホームで新聞を投げつける行為は、相手方の驚き具合によってはホームからの転落の危険を含むため、相手を電車にひかせる危険を有する行為である。また、確かに本件ではAは退避スペースに退避しなかったという介在事情があり、同スペースに避難すれば死亡することはなかったのだから、介在事情は結果へ大きく寄与した。しかし、ホームに転落するという異常事態の中では、退避スペースへ避難しなかったことが著しく不自然・不相当ではない。よって、行為が介在事情を誘発したといえ、危険の現実化が認められるため、因果関係が認められる。

(3)Aには「暴行」の故意はあり、結果的加重犯の傷害致死罪の故意は必要ない。

(4)よって、傷害致死罪(b)が成立する。

4.したがって、abが成立し、併合罪(45条前段)となる。

以上