娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2014民訴

第1.問1

1.「Aが甲土地の所有者であったことは認める」との主張(以下、主張①)について

(1)主張①は、裁判上の自白(民事訴訟法(以下略)179条1項)といえないか。

 ア、裁判上の自白とは、①口頭弁論又は弁論準備手続における、②相手方の主張と一致する、③自己に不利益な、④事実の陳述をいう。③は基準の明確性から、相手方が証明責任を負うという意味だと考える。

 イ、本件では、本件訴訟の口頭弁論におけるものである(①)。また、XはもとA所有を主張しており、これと上記Yの主張は一致する(②)。そして、XはAが所有していた甲土地を相続(民法882条、896条本文)したと主張しているため、XはA所有を証明するのが公平である。よって、A所有は相手方であるXが証明責任を負うため、自己に不利益といえる(③)。確かにA所有は所有権という権利に関する陳述である。しかし、所有権は日常的な法律概念であり、所有権の自白は背後にある事実の包括的陳述であると見うるため、事実の陳述であるといってよい(④)。よって、主張①は裁判上の自白に当たる。

(2)そうすると、裁判所はもとAの甲土地所有という事実を「証明することを要しない」(179条)。また、不要証効が生じた場合、当事者は裁判所に不要証効が働いていると信じるため、当事者に対する不意打ちを防止する必要がある。そこで、裁判所には、自白事実をそのまま判決の基礎としなければならないとの弁論主義第2テーゼが要請される。もっとも、裁判官の自由心証(247条)に対する制約防止の見地から、その自白事実は権利義務の発生変更消滅という法律効果の判断に直接必要な事実に限られる。本件では、自白事実であるA所有は、Xの権利の発生に直接必要な事実であるため、主要事実である。よって、裁判所は弁論主義第2テーゼによって、甲土地のAもと所有を判決の基礎にしなければならない。

 また、当事者に対する効果として、自白が成立すれば相手方は証明活動から解放されたと信じ、資料の収集保管を中止するため、禁反言(2条)上、自白事実を撤回することは原則として許されない。本件でも、原則としてYは主張①を撤回できない。

2.「Aは生前に甲土地を自分に売却していた」との主張(以下、主張②)について

(1)抗弁とは、請求原因と両立し、請求原因から発生する法律効果を障害消滅阻止する事実の主張である。

(2)主張②は、請求原因と両立し、それを障害する事実の主張であり、抗弁である。

第2.設問2

1.裁判所は、本件後訴でのXの主張を既判力によって排斥すべきでないか。

(1)既判力とは、確定判決の判断内容の後訴での拘束力をいう。その趣旨は紛争の蒸し返しの防止にあり、手続保障により正当化される。よって、既判力は「主文」(114条1項)たる訴訟物に生じるため、既判力は前訴訴訟物が後訴訴訟物と①同一、②先決、③矛盾関係にある場合に作用する。

(2)本件前訴の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であり、後訴訴訟物は賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての土地明渡請求権である。そうすると、①②③いずれであるともいえず、既判力は作用しないため、Xの主張は排斥されない。

2.もっとも、一度棄却された甲土地の明渡しをもう一度請求することは、Yの信頼を害し、信義則(2条)に反しないか。

(1)訴訟の相手方が後訴に関する争いは決着済みであると信頼し、その信頼に合理的な理由がある場合は、後訴は信義則(2条)によって却下されるべきである。

(2)本件前訴ではYの賃借権の抗弁が提出されており、これが認められている。そうすると、Yとしては賃借権を主張するのに必須である賃料の支払いも認められたのと考えるはずである。そうすると、Yという訴訟の相手方が後訴に関する争いは決着済みだと信じ、その信頼は合理的であるため、裁判所は、本件後訴を却下すべきである。

以上