娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2015刑法

第1.Xの罪責

1.XがAに暴行をして財布を抜き取って車の方に引き返した行為に強盗罪(刑法236条1項)が成立しないかが問題となるが、「暴行」とは財物奪取に向けられた犯行抑圧程度の不法な有形力行使であるため、強姦に向けられた有形力行使である本件では、「暴行」といえない。

2.よって、暴行罪(208条)が成立する(a)にとどまる。

3.Xが財布を抜き取って車に引き返した行為に、窃盗罪(235条)が成立しないか。

(1)財布はAの所有物であり、「他人の財物」といえる。

(2)「窃取」とは、占有者の意思に反して、財物を自己又は打算者の占有に移すことを言う。

 本件では、Aの意思に反して、XとYは財布をもって引き返している。Aは動かないように意識していたのだから、AはX・Yに追いつけず、占有が移転したといえる。よって、「窃取」といえる。

(3)もっとも、XはAが死亡したものと考えており、Aの占有はなかったと認識している。そこで、故意(38条1項本文)が阻却されないか。Xの内心で死者の占有があるといえるかが問題となる。

 ア、占有は財物に対する事実的支配であるため、死者の占有は原則として認められない。もっとも、刑法的保護に値する死者の占有は例外的に認めるべきである。そこで、死亡と時間的・場所的に近接する死者の占有は認められる。

 イ、本件では、Xの内心では、Xは財布を付近に落ちていたAのバッグから抜き取っており、Aの死亡と場所的に近接した財物をとったといえる。また、計画は直ちに実行されており、財布をとったのは時間的にも近い時点といえる。これらから、XがAを実際に死亡させていたとしてもAの財布にする占有は認められるため、Xの内心では窃盗罪の構成要件該当事実の認識・認容があり、故意はある。

(4)よって、窃盗罪が成立する(b)。下記のように、Yと共同正犯(60条)となる。

4.XがAを置いて立ち去った行為について、保護責任者遺棄罪(218条前段)が成立しないかが問題となるが、XはAが死んだと思っており、38条2項によって「重い罪」の同時㋐は成立しない。もっとも、死体遺棄罪(190条)は成立しないか。「遺棄」といえるか。

(1)構成要件該当事実は実質的に判断すべきである。よって、構成要件の重なり合いがあれば故意に対応した軽い構成要件該当性を認めてよい。構成要件の主要な要素は行為と結果であるため、重なり合いは行為態様・保護法益から判断する。

(2)確かに保護責任者遺棄罪と死体遺棄罪は遺棄という行為で共通する。しかし、前者は身体の安全、後者は宗教感情を保護法益とするため、その点で重ならない。

(3)よって、「遺棄」といえず、死体遺棄罪は成立しない。

5.よって、abが成立し、併合罪(45条前段)となる。

第2.Yの罪責

1.財布の持ち去りにXとの間に窃盗罪の共同正犯(60条、235条)が成立しないか。

(1)共同正犯の処罰根拠は、相互利用補充関係による因果性の惹起であるため、①共謀、②それに基づく実行行為が要件となる。

(2)本件では、金品を奪うという計画がX・Y間であり、意思連絡・正犯意思があるため、共謀がある(①)。それに基づく持ち去りという実行行為もある(②)。

(3)よって、同罪の共同正犯が成立する(c)。

2.YがネックレスをAから持ち去った行為について強盗罪(236条1項)が成立しないか。

(1)「暴行」とは上記のものである。

(2)ネックレスを引きちぎろうとすることは首に負担をかける有形力行使である。また、林の奥では助けを呼べないため、犯行抑圧程度といえる。よって、「暴行」といえる。

(2)「強取」ともいえる。

(3)よって、同罪が成立する(d)。

3.よってcdが成立し、併合罪となる。

以上