娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2016商法

第1.問1

1.本件貸付は「取締役」Yと甲社の直接取引(会社法356条1項2号)であり、「取締役会設置会社」(2条7号)である甲社では取締役会に「重要な事実を開示」したうえで「承認」を受ける必要があったのではないか(365条1項、356条1項柱書)。「ために」の意義が問題となる。

(1)356条1項3号は、会社と第三者の取引を規制しているため、同項2号は会社と取締役が当事者となる取引を規制していると考えるべきである。そうすると、「ために」とは名義でという意味である。

(2)本件では、Yは本件貸付の消費貸借契約の借主という当事者であり、Y名義で取引したといえる。よって、「ために」といえる。

2.そうすると、取締役会の上記「開示」「承認」が必要であった。それにもかかわらずYは取締役会に諮っておらず、「開示」「承認」は全くなかった。ここで、「開示」「承認」のない直接取引の効力が問題となる。

(1)356条1項柱書の趣旨は、取締役の競業取引や利益相反取引によって会社に損害が生じることを防止するため、事前に承認機関による慎重な判断を要求する点にある。そうすると、取締役と会社との間では、直接取引は無効である。もっとも、取引安全の見地から、会社は第三者との関係では、第三者の悪意を主張・立証して初めて無効を主張できると考える。

(2)本件でも、Yと甲社との関係では本件貸付は無効である。また、第三者の登場はない。よって、本件貸付は無効である。

3.Yの甲社に対する423条1項に基づく損害賠償請求権は認められるか。要件は①「役員等」、②任務懈怠、③帰責事由(428条1項参照)、④「損害」、⑤②④の因果関係である。

 Yは代表取締役という「役員等」である(①)。また、直接取引をした取締役であるから「取締役」(423条3項1号)であり、任務懈怠が推定される(同柱書)(②)。直接取引では帰責事由の不存在による免責はなく(428条1項)(③)、5000万円を甲社がYに貸したことで5000万円の「損害」(④)が発生している。②④に因果関係はある(⑤)。よって、Yは甲社に対して423条1項に基づく5000万円の損害賠償責任を負う。

第2.問2

1.Yは本件貸付の弁済を履行期になってもしないため、甲社のYに対する消費貸借契約に基づく貸金返還請求権は認められるべきである。もっとも、本件は「監査役設置会社が取締役…に対し…訴えを提起する場合」(386条1項1号)に当たるため、監査役Cが訴訟を提起すべきであり、株主であるXは法的措置をとれないとも思える。もっとも、「責任」(847条1項本文)に上記貸金返還債務が含まれないか。

(1)同本文の趣旨は、取締役や監査役が「責任追及等の訴え」の提起を懈怠する可能性に照らして、株主に訴訟提起のイニシアチブを与えた点にある。そうすると、「責任」には会社と取締役との間の取引債務も含まれる。

(2)よって、本件貸付金の返還債務も取引債務である以上、「責任」に含まれる。

2.よって、甲社「株主」(847条1項本文)であるXは甲社に提訴を請求でき、「六十日」が経過すればXは自らYに責任追及できる(同3項)。

以上