娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2016民訴

第1.設問1

1.本件では、Xは当初入院治療費100万円を請求していたのに対して、裁判所はそれを超えて150万円であると認定して判決をしているため、「申し立てていない事項」(民事訴訟法246条)について判決がされたといえないか。本件ではXは慰謝料100万円も請求しているため、認容合計額が求めた300万円以内の250万円に収まっている限り申立事項拘束主義に反しないのではないか。財産的損害と精神的損害の訴訟物の同一性が問題となる。

(1)財産的損害と精神的損害については、原因事実と被侵害利益が同一である。また、消極的損害や積極的損害を積み重ねても十分な損害額とならない場合に、裁判所は慰謝料で少ない分を調整することが望ましい。したがって、財産的損害と精神的損害の訴訟物は同一である。

(2)本件でも、入院治療費という財産的損害と、慰謝料という精神的損害の訴訟物は同一であるといえる。よって、本件訴訟での訴訟物の範囲は300万円であり、250万円が300万円に収まっている限り、「申し立てていない事項」につき判決がされたといえないとも思える。

2.もっとも、300万円中の250万円の一部認容判決は申立事項拘束主義に反しないか。

(1)246条の趣旨は、処分権主義の訴訟物特定について当事者が自由に決定できるとの側面を示す点にある。処分権主義の趣旨は、私的自治の訴訟法的反映であり、機能は相手方の不意打ち防止にあるため、①原告の合理的意思に反しないか、②被告の不意打ちにならないかで判断する。

(2)300万円中250万円という一部でも認容されたいのが給付を求めるXの意思であり(①)、一部と少ない額の認定である以上Yへの不意打ちはない(②)。よって、申立事項拘束主義に反しない。

3.以上から、訴訟法上の問題点はない。

第2.設問2

1.裁判所はXの請求を全部認容しており、Xは入院治療費150万円を追加することができるか。控訴の必要性・実効性である控訴の利益が認められるかが問題となる。

(1)処分権主義の下、裁判所が請求を全部認容した場合には判決に対して当事者に自己責任を問いうる点、基準の明確性という点から、申立てと主文を比較して、後者が前者より少ない場合に控訴の利益が認められる。もっとも、自己責任が問えない場合は例外的に控訴の利益を認めるべきである。そこで、判決が確定し既判力・執行力が生じることによって、後訴では救済されない不利益が生じてしまう場合は例外的に全部勝訴した当事者にも控訴の利益を認めるべきである。

(2)本件では、裁判所はXの請求をすべて認めており、Xは全部勝訴しているため、申立と主文は同じであるといえ、控訴の利益は認められないのが原則である。もっとも、300万円の認容判決が出されると、300万円の存在について既判力が生じる(114条1項)。そして、Xは前訴で黙示的一部請求をしていたため、禁反言ないし信義則(2条)上、前訴訴訟物と後訴訴訟物が同一であるとされる。そうすると、前訴で生じた既判力が後訴に及び、150万円の存在についての主張は排斥される。このような不利益が生じるため、Xには例外的に控訴の利益を認めるべきである。

2.したがって、Xは控訴できる。

以上