娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2016民法

1.EのCに対する所有権に基づく返還請求権としての本件越境部分の明渡請求権は認められるか。請求原因は、①E所有、②C占有である。本件では、Eは本件越境部分を含むβ土地の所有者であるBからβ土地を買い取っており、β土地の所有権を取得している(555条、176条)。また、本件では、Cは本件建物を所有し、β土地を占有している。よって、請求は認められるとも思える。

2.ここでCから、Cはα土地をAから賃貸(601条)しており、本件越境部分を含む土地の賃借権を時効取得したとの反論がありうる。もっとも、賃借権は債権であり、「財産権」(163条)にあたるか。

(1)時効制度の趣旨は、継続した事実状態の尊重にある。原則として債権は一回的給付を目的とするためその尊重の必要がないため、「財産権」に含まれない。もっとも、使用収益という継続的給付を目的とする賃借権は、事実状態の尊重の必要性があり、債権でも例外的に「財産権」といえる。なお、時効中断の機会を所有者に確保させる見地から、「行使」(163条)として、①土地の継続的用益という外形的事実の存在、「自己のためにする意思」として、②賃借の意思に基づくことの客観的表現を要求すべきである。

(2)本件でも、①②を満たせば賃借権も「財産権」といえる。

3.そうすると、短期での賃借権の時効取得の要件は、①②に加えて、③「平穏」「公然」(162条2項)、④「十年」、⑤占有開始時に「善意」、⑥無「過失」、⑦時効援用の意思表示(145条)である。

 本件では、本件建物は1996年3月11日に完成しており、建物占有は土地の利用を前提とする行動であるから、この時点で土地の継続的用益という外形的事実が存在したといえる(①)。Cは現在に至るまでAに賃料を支払い続けている。賃料の支払いは外部から認識されるものであり、Cの賃借の意思は客観的に表現されていた(②)。強暴・隠秘に関する事情はなく、186条1項によって「平穏」「公然」といえる(③)。現在は2015年8月29日であり、Cは1996年3月11日から「十年」といえる(同2項参照)(④)。Cは本件越境部分がB所有であることを知っていた事実はなく、同1項によって「善意」といえる(⑤)。また、本件越境部分には舗装工事がされており、Cは同部分がB土地に属することを疑うべきとするのは酷である。よって、無「過失」といえる(⑥)。よって、援用(⑦)によってCの反論は認められるとも思える。

4.もっとも、Eが土地βを取得して所有権移転登記を行い、対抗要件を具備した(177条)2005年8月15日以前に、本件越境部分につきCは対抗要件(605条、借地借家法10条1項)を具備しておらず、賃借権の時効取得を対抗できないとの再反論がありうる。時効取得者は登記を備える必要があるか。

(1)時効完成前の第三者と時効取得者は当事者の関係にあるため、その場合時効取得者は登記を備える必要はない。

(2)本件では、Cの占有開始は①の開始時点であり、その「十年」後は2006年3月11日である。それに対してEがβ土地を取得したのは2005年8月15日であり、Eは時効取得前の第三者である。よって、Cは登記を経る必要はない。

5.以上から、Cの反論が認められ、Eの請求は認められない。

以上