娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2017刑訴

第1.設問1

1.刑事訴訟法(以下略)212条1項について

(1)同項では、「現に罪を行」う者又は「現に罪を行い終わつた者」が要件とされている。もっとも、後者はいかに解釈すべきか。

 被疑者を逮捕する際は、事前の司法審査によって不当な人権侵害を防止すべく事前の令状発付を経るのが原則である(199条1項、憲法33条。令状主義)。もっとも、現行犯逮捕(213条)では、逮捕の必要性が高い一方、犯罪の嫌疑が明白で誤認逮捕の恐れが類型的に低いことから令状主義の例外として令状なしの逮捕が許容されている。このような趣旨から、「現に罪を行い終わつた」とは、a犯罪と、b犯人の明白性を言うと考える。時間的場所的接着性はbの重要な考慮要素である。

(2)また、通常逮捕と別異に考える余地はないため、逮捕の必要性(199条2項但書、刑事訴訟規則143条の3)も要する。

2.212条2項について

(1)同項ではまず、「各号」である同1号ないし4号に該当する事情が必要である。

(2)「現に罪を行い終わってから間がない」とは、上記趣旨からabを指す。

(3)逮捕の必要性も同1項と同様にして必要である。

第2.設問2

1.①について

(1)Vからの通報で犯罪の発生は明白といえる(a)。また、その通報は、事件が発生した平成28年9月3日午前2時頃に、5分ほど前に強盗事件が発生したとのものである。よって、①と25分程度しか離れていない。また、居酒屋において、店内は乱れ、血の付いたナイフがあったため、居酒屋が犯行場所であると考えられ、①と場所的接着性がある。そして、その居酒屋では、Wらと甲がもみ合っていており、甲は「観念した」と被疑事実を認める発言をしている。そうすると、甲が犯人であることが明白であり、bといえる。よって、「現に罪を行い終わった」といえる。

(2)甲には逃亡・罪証隠滅のおそれがあり、逮捕の必要性もある。

(3)よって、①は適法である。

2.②について

(1)同様にしてaといえる。もっとも、Kらは午前3時20分と犯行から1時間以上も経過した時点で、500mも離れた児童遊園という居酒屋とは全く別の場所で男を逮捕しており、犯罪が明白とはいえず、「現に罪を行い終わつた」とはいえないため、212条1項の逮捕はできない。

(2)では、同2項の逮捕は許されるか。本件では「乙さんじゃないですか」と言われたのに対して男は立ち去ろうとしており、「誰何されて逃走しようとするとき」(212条2項4号)といえる。もっとも、男の身体や着衣に不審な点はなく、「証跡」(同3号)はなく、同1号、2号該当事実もない。そうすると、高度のabが要求される。もっとも、本件では第三者であるWが男を犯人であると認めているにすぎず、このような補充資料のみではbといえず、「罪を行い終わってから間がない」といえない。

(3)よって、②は違法である。

以上