娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2017民法

第1.問1

1.XのY及びZに対する賃料支払請求権が認められるためには、Xの抵当権の物上代位(民法(以下略)372条、304条1項本文)がAのY・Zに対する賃料債権上に認められる必要がある。

2.まず、賃料が「賃貸…によって債務者が受けるべき金銭」(同本文)かが問題となる。

(1)同本文の趣旨は、担保物権の目的物の価値が他の物に発生した場合に、その物に担保物件の効力を及ぼして当事者間の公平を図る点にある。そうすると、抵当目的物の価値のなし崩し的実現といえる賃料は「金銭」といえる。

(2)本件でも、AのY・Zに対する賃料は「金銭」といえ、賃料債権に物上代位の効力は及びうる。

3.また、AYZに対して差押命令が2016年8月15日までに送達されており、賃料の支払いは同月31日であるから「払渡し又は引渡しの前に差し押さえをした」(同但書)と言えそうである。もっとも、Aは2014年5月20日に、9月分を含むYZに対する賃料債権をBに譲渡しており、確定日付のある証書による通知という第三者対抗要件(467条2項)は同月22日に具備されているため、債権譲渡が「払渡し又は引渡し」にあたれば「前に差押え」がされたとは言えないのではないか。

(1)債権譲受人は登記による公示(177条)によって、抵当権の目的物に対して物上代位の効力が及ぶことを知ることができるため、372条の準用する304条1項但書の趣旨は、第三債務者の二重弁済を防止する点のみにあると考えられる。よって、抵当権の場合、債権譲受人を保護する必要はなく、債権譲渡は「払渡し又は引渡し」といえない。

(2)本件でもAのBに対する上記債権譲渡は「払渡し又は引渡し」にあたらず、「前に差し押さえをした」といえる。

4.以上から、Xの請求は認められる。

第2.問2

1.Xの抵当権に基づく物上代位をAのY・Zの賃料請求権に及ぼすためには、協力金返済請求権を自働債権とする相殺(505条1項本文)が認められない必要がある。物上代位と相殺のどちらを優先すべきか。

(1)第三債務者は抵当権の物上代位の効力が目的物に及ぶことを登記により知ることができる。そうすると、①抵当権者が差押えをした後は、②抵当権設定登記後に締結した賃貸借契約に基づく賃料請求権を自働債権とする相殺を優先させる理由はない(177条、511条2項参照)。

(2)Yについて

 本件では、2016年8月15日までに、Yに差押え命令が送達されている(①)。また、Yが賃貸借契約を締結したのは、2013年6月20日である。一方で、Xの抵当権設定登記は7月15日である。よって、AY間の賃貸借契約は抵当権設定登記前に締結されているため、②といえず、相殺が優先する。よって、Xの請求は認められない。

(3)Zについて

 ①については、Yと同様である(①)。また、2016年AZ間で賃貸借契約が締結された同月20日であり、Xの登記後である(②)。よって、Zの相殺は劣後する。よって、Xの請求が認められる。

以上