娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2018刑法

第1.設問1

1.ZがAから名刺入れをすり取った行為について、窃盗罪(刑法235条)が成立しないか。

(1)名刺入れはAという「他人の物」である。

(2)「窃取」とは、占有者の意思に反して、財物を自己または第三者の占有に移すことを言う。本件では、平成29年8月2日午前0時30分頃から午前2時30分がAの死亡推定時刻であるため、利益原則から、Aが同日午前1時30分頃に名刺入れを占有していたとはいえず、「窃取」といえない。よって、同罪は成立しない。

2.もっとも、同未遂罪(243条、235条、43条本文)は成立しないか。「実行に着手」といえるか。

(1)未遂犯の処罰根拠は、結果発生の現実的危険性にある。よって、「実行に着手」といえるには、結果発生の現実的危険性のある行為を開始することが必要である。

(2)本件では、ZはAから名刺入れを奪って逃走していたのは同日午前1時30分であり、Aの死亡推定時刻は上記の時刻の範囲であるため、50%はAが生きていた可能性があるタイミングで奪ったといえる。よって、「窃取」の危険性が現実的だったといえ、「実行に着手」といえるため窃盗未遂罪(a)が成立する。

3.ZがBに体当たりした行為について、事後強盗致死罪(238条、240条後段)が成立しないか。

(1)本件では上記のように、Zには窃盗未遂罪が成立しており、Zは「窃盗」(238条)といえる。

(2)Zは今度こそ捕まりかねないと思っており、「逮捕を免れ」るためといえる。

(3)238条の趣旨は、238条所定の目的で行われる暴行脅迫が強盗罪の暴行脅迫と同視できることから、事後強盗罪を強盗罪に準じる犯罪とする点にある。そうすると、「暴行又は脅迫」とは、①窃盗の機会に行われた、②犯行抑圧程度の不法な有形力行使または害悪の告知をいう。

 本件では、確かに午前2時という助けを呼べない時間に全力で体当たりがされており、犯行抑圧程度の有形力行使といえる(②)。しかし、Zは1kmも離れた公園まで一度逃げているため、安全圏に入ったといえる。よって、窃盗の機会といえず、「暴行又は脅迫」といえない。

4.よって、単に傷害致死罪(205条)(b)が成立するにとどまる。

5.よって、abが成立し、併合罪(45条前段)となる。

第2.設問2

1.XとYに傷害致死罪の共同正犯(60条)が成立しないか。

(1)XY間に意思連絡はなく、「共同して」といえないため、成立しないのが原則である。もっとも、XとYという「二人以上」(207条)で手拳で殴打する有形力という「暴行を加えて」、Aを「傷害」させ、脳出血を発生させた「者を知ることができない」といえ、同条が適用されると思える。もっとも、傷害致死罪の場合においても同条を適用できるか。

ア、同条の趣旨は、因果関係の証明が困難なことに照らして、実質的挙証責任を転換する点にある。そうすると、傷害致死罪の場合にも同条の適用がある。

イ、本件でも適用がある。

(2)そうだとしても、この趣旨から、①各暴行が当該傷害を発生させる危険性を有すること、②各暴行が同一の機会にされたことを要する。

 本件では、Aの脳出血はいずれかの暴行から生じたことは確実である。そうだとすれば、単独暴行でもそれぞれ脳出血を発生させられたといえ、①といえる。また、Yの暴行はXの暴行のすぐ後に行われており、②ともいえる。

2.以上から、XとYに傷害致死罪の共同正犯が成立する。

以上