娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2018商法

第1.設問1

1.Yの甲社に対する会社法423条1項に基づく損害賠償請求権は認められるか。①「役員等」、②「任務」懈怠、③帰責事由(428条1項参照)、④損害、⑤②④の因果関係が要件となる。

(1)Yは甲社の代表取締役であり、「役員等」である(①)。

(2)任務懈怠はあるか。前提として、Yが乙社を設立して乙社の取締役に就任した上、乙社を代表して(349条1項本文)、本件土地を取得したことは「事業の部類に属する取引」(356条1項1号)といえないか。

 ア、同号の趣旨は、取締役は強大な権限を有し事業の機密にも通じていることから、その地位を濫用し会社が得るはずの利益を得ることが予想されるためそれを防止する点にある。そうすると、「事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行う取引と、目的物・市場が競合する取引をいう。また、その趣旨から、会社が市場に進出する具体性・確実性があれば、市場が競合するといえる。

 イ、本件で乙社が買った目的物は本件土地である。本件土地は菓子の製造・販売に適した土地であり、菓子の製造・販売をする甲社が買うかもしれない目的物であり、目的物が競合するといえる。また、甲社は具体的な目標地域として大阪市内で事業展開を考えており、市場調査会社も利用していることから、今にも市場に進出するといえ、市場進出は具体的かつ確実といえるため、市場も競合する。よって、「事業の部類に属する」といえる。

(3)また、「ために」(同号)とは上記趣旨から、計算でとの意味である。

 本件では、乙会社が本件土地を取得しており、実質的に乙会社に利益が帰属しているため、乙会社の計算でといえ、「第三者のために」といえる。

(4)そうすると、甲社は取締役会設置会社であることから、取締役会の「承認」を要する(365条1項、356条1項柱書)。もっとも、本件土地の取得は2014年4月に行われたのに対して、2017年9月1日に承認が行われている。

 ア、「承認」が必要とされる趣旨は、会社に不利益が生じることを防止する点にある。そうすると、事前のものでなければ「承認」と言えないと考える。

 イ、本件では事後のものであるため、「承認」といえない。

(5)したがって、「法令」(355条)違反があり、任務懈怠といえる(②)。

(6)Yは「ワンマン社長」であったことをいいことに、承認を遅らせたといえ、帰責事由がある(③)。

(7)乙社の得た1億円は「損害」と推定される(423条2項)(④)。

(8)乙社は本件土地に新設した菓子工場で1億円の利益を上げたため、②④の因果関係はある(⑤)。

2.以上から、Yは甲社に対して1億円の賠償責任を負う。

第2.設問2

本件契約は取締役会へ「承認」がない競業取引である。ここで、そのような取引の効力が問題となる。

356条1項1号、同柱書の趣旨は上記のものである。競業取引自体を無効としても会社の損失が回復することはない。よって、取締役会の「承認」なき競業取引は有効であると考える。

本件でも有効である。

以上