娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2018民訴

第1.設問1

1.前提として、500万円を請求する訴訟(以下、前訴)と300万円を請求する訴訟(以下、後訴)の訴訟物は、未払い賃料の一部である旨を訴状に記したことによって分断されないか。

(1)訴訟物の問題は処分権主義の問題である。処分権主義の趣旨は、私的自治の訴訟法的反映と、相手方の不意打ち防止である。明示的一部請求の事例であれば、原告は後に残部を請求する意思を有する。また、明示があれば被告は反訴(146条1項)を提起できるため、残部請求を受けても不意打ちとならない。よって、明示があれば訴訟物は分断される。

(2)本件では、訴状に上記記載があり、明示があったといえるため、前訴・後訴の訴訟物は別個となる。

2.そうすると、前訴の「主文」(114条1項)である500万円の不存在に既判力が生じたとしても、前訴訴訟物は後訴訴訟物と同一、先決、矛盾関係いずれにもないといえ、前訴の既判力は後訴に及ばないため、300万円の請求をすることができるのが原則である。

2.もっとも、前訴の請求は全部棄却されており、後訴の提起は信義則(2条)に反しないか。

(1)数量的一部請求の事例において、一部請求の段階で裁判所は債権全体を審理せざるを得ない。そうすると、一部請求訴訟で全部棄却ないし一部認容判決が出された場合、残部請求をすることは、紛争の蒸し返しであり、被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いる。よって、そのような残部請求は信義則に反するとして却下される。

(※数量的一部請求訴訟においても、裁判所は債権全体を審理する。そうすると、一部請求が棄却された後の残部請求は、紛争を蒸し返すものであり、被告の合理的期待に反し、被告に二重応訴の負担を強いる。よって、特段の事情がない限り、一部請求を棄却した後の残部請求は信義則によって却下される。)

(2)本件でも、前訴で請求棄却の判決が確定しており、(※上記特段の事情もない。よって、)裁判所は後訴の訴えを却下すべきである。

第2.設問2

1.口頭弁論終結の日の翌日以降から明渡し済みまでの期間の損害賠償請求権は将来給付の訴えであり、訴えの利益が認められるかが問題となる。

(1)将来給付に関する判決をすれば、将来の事情変更によって不当な執行がされる恐れがある。そうすると、権利保護の資格、権利保護の利益について厳格に判断すべきであるため、前者として①請求適格、後者について②「あらかじめその請求をする必要」(135条)性を要する。具体的には、①について、a請求権の基礎となるべき事実関係・法律関係が存在し、その継続が予想され、b債務者に有利な影響を与える事情の変動があらかじめ明確に予測しうる事由に限定され、cその提訴及び証明の負担を請求異議事由として債務者に課しても格別不当でないことを要する。②については、債務者の態度等に照らして判断する。

(2)本件請求権は不法行為に基づく損害賠償請求権である。その基礎となる事実関係は、Yの甲土地の不法占拠である。Yは甲土地上で金属加工を行っており、顧客もいることから不法占有の継続が予想される(a)。また、債務者に有利な影響を与える事情の変動はYが甲土地の占有自体をやめることに限定されている(b)。作業小屋の収去があれば占有をやめたことになるため、この提訴・証明をYに課すとしても不当でない(c)。よって、Xの請求適格はある(①)。また、Yは賃料の滞納を続けておりXは賃貸借契約を解除しているということは、XY間の信頼関係が破壊されているため、「あらかじめ請求をする必要」性はある(②)。

2.以上から、訴えの利益があり、訴えは適法である。

以上