娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2018民法

第1.設問1

1.Yは「二人が互いに…債務を負担する」(民法(以下略)505条1項本文)といえることを主張すべく、YのXに対する200万円の貸し付けが有効であることを主張する。本件では、本件貸付時にAはXの同意を得ていないのに、Yに貸し付けを申し込んでいる。よって、本件貸付は無権代理によって締結されたため、Xの「追認」のない本件では無効である(113条1項)のが原則である。

2.478条について

(1)もっとも、Aは詐称代理人であるから、他者から見れば本人のために相手方から弁済を受領する権限があると考えられるものであるため、「受領権者としての外観を有するもの」といえる。(※詐称代理人は「受領権者としての外観を有するもの」といえるか。同条の趣旨は、債務の弁済は日常的に行われるため、受領権限に対する弁済者の信頼を保護し、取引の停滞を防止する点にある。そうすると、「受領権者としての外観を有するもの」には、本人を名乗るもののみならず、詐称代理人も含まれる。)ここで、本件貸付による200万円の交付が「弁済」といえ、本件貸付が有効となりえないか。

 ア、担保貸付・相殺予約・相殺という一連の行為は弁済と実質的に同視できるため、担保貸付の場合も同条が類推適用されると考える。

 イ、本件でも、同条が類推適用されうる。

(2)Yの担当者はYが詐称代理人であることを知っていた事情はなく、「善意」といえる。もっとも、Yは保険会社という大金を扱う会社であり、本件貸付も200万円と高額だった。そうすると、Yの担当者にはAに本件貸付をする際、Xの代理権を有するか否かを徹底的に調査する高度の注意義務が課せられていた。それにもかかわらず、Yの担当者はXの委任状の署名・押印とAの保険証によるAの本人性を確認したにとどまり、Xに電話をすることなく代理権授与の事実には何ら確認しようとしていなかった。よって、「過失がなかった」といえない。

(3)以上から、Yは同条の類推適用によって本件貸付が有効であることを主張できない。

3.761条、110条について

(1)もっとも、YとXは「夫婦」(761条本文)であり、本件貸付が「日常の家事」といえ、Aは法定代理権を授与されていたため、本件貸付が有効であるといえないか。

 ア、同条の趣旨は、日常の家事処理の便宜のため、夫婦相互に法定代理権を与える点にある。そうすると、「日常の家事」とは、夫婦が個々の共同生活を営むうえで通常必要な法律行為をいう。

 イ、本件貸付は200万円と高額であり、通常夫婦の共同生活に必要でない。よって、「日常の家事」といえない。よって、同条は適用できない。

(2)もっとも、Aの日常家事の法定代理兼を基本代理権として、110条によってYの保護を図れないか。

 ア、110条の趣旨は取引の安全を図る点にある。もっとも、あらゆる日常家事の法定代理権を基本代理権とすると夫婦の財産的独立(762条1項)を害する。そこで、行為の相手方が、その行為が当該夫婦の日常家事に関する法律行為の範囲内に属すると信じるにつき正当な理由がある場合には同条を類推適用できる。

 イ、本件では、Yの担当者はAがXの妻であることを確認している。また、本件貸付が200万円と高額であることも勿論認識している。よって、日常家事に関する法律行為の範囲内であると信じたとは言えず、同条は類推適用されない。

(3)以上から、Yは同条の類推適用も主張できない。

4.したがって、Yの主張は認められない。

以上