娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2019商法

第1.問1

1.Aらは本件取締役会開催についてXに知らせていないため、「代表取締役」(会社法349条4項)であり「取締役会を招集する者」(368条1項)であるAがXに「通知を発し」ておらず、招集手続の法令違反がある。ここで、瑕疵のある取締役会決議の効力が問題となる。

(1)瑕疵のある取締役会決議について定めた条文はない(830条、831条参照)ため、法の一般原則から、原則として瑕疵のある取締役会決議は無効である。もっとも、法的安定性の見地から、招集手続の法令違反がなくとも決議の結果に影響しない特段の事情があれば例外的に有効である。

(2)本件でも、原則として無効である。また、確かにXが本件取締役会に参加しなくても、B、C2名という3名の「過半数」(369条1項)によって可決されたとも思える。しかし、本件取締役会には監査役であるDも参加しており、Xの反対意見をDが汲み取って、Aの本件計画を消極的に了解したにとどまるB又はCが翻意した可能性も十分ある。よって、上記特段の事情はなく、原則通り無効である。

2.したがって、本件取締役会決議は無効である。

第2.問2

1.Xの本件新株発行の無効の訴え(828条1項2号)は認められるか。XはY社の「株主」(同2項2号)であり、本件新株発行は2018年6月8日に行われており、現在は2018年8月中旬であるため、「六箇月以内」(同1項2号)といえる。よって、XはY社を被告として(834条2号)、「訴えをもって」(828条1項柱書)提起できる。

2.そして、本件ではY社は「公開会社」(2条5号)であり、新株発行時には取締役会の決議(201条1項前段)を要するのに、本件取締役会決議は無効となっている(以下、瑕疵①)。また、株主への通知・広告はなく、201条3項、4項違反もある(以下、瑕疵②)。ここで、これらが「無効」といえるかが問題となる。

(1)法的安定性確保の見地から、「無効」は重大な瑕疵に限る。

(2)瑕疵①について

 確かに新株発行は本来組織法上の行為であるが、授権資本制度の下、会社の業務執行に準じ、取引上の行為といえる。そうすると、新株発行時の取締役会の決議の欠缺は会社内部の手続の欠缺すぎない。よって、重大といえず、「無効」事由にならない。よって、主張は認められない。

(3)瑕疵②について

 201条3項、4項の趣旨は、株主に差止め(210条)の機会を与える点にある。そうすると、通知又は広告がなければ株主が新株発行の効力を争う機会を奪ったことになる。よって、差止め事由がない特段の事情がない限り、通知又は広告の不存在は重大な瑕疵であり「無効」といえる。

 本件では201条1項前段違反という「法令…違反」(210条1項)である差止め事由があり、特段の事情はない。よって、原則通り「無効」といえる。

3.以上から、Xは瑕疵②を主張することが考えられ、そのようにすれば主張は認められる。

以上