娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2019民法

第1.設問1

1.EのBに対する所有権に基づく返還請求権としての甲土地の明渡請求権は認められるか。請求原因は①E所有、②B占有である。

2.本件では、AはBに甲土地を贈与(民法549条)しており、Bは甲土地の所有権を取得している(176条)。一方で、CはAを「相続」(882条)し、甲土地の所有権を取得している(896条本文)。Cは甲土地をDに売却(555条)し、Dは甲土地の所有権を取得している(176条)。この所有権取得に基づくDの所有権移転登記によってDがBとの関係で「第三者」(177条)となる結果、BはDに対抗できずDは確定的に所有権をしないか。

(1)同条の趣旨は、自由競争の範囲内で、物権変動につき登記による公示を要求して不動産取引の安全を図る点にある。そうすると、「第三者」とは、a当事者及び包括承継人以外の者で、b登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう。

(2)本件では、DはBとの関係で当事者でもなく、包括承継人でもない(a)。また、DはCから甲土地を買っており、所有権を取得しており、この所有権を確定的に取得するためにBの登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する(b)。よって、Dは「第三者」といえ、甲土地の所有権を確定的に取得する。

2.そのDからEは甲土地を相続しているのだから、Eは甲土地を所有しているといえる(①)。また、Bは乙建物を所有し甲土地を占有している(②)。よって、請求は認められるとも思える。

3.ここでBから、Bは甲土地を時効取得したとの反論がありうる。162条1項の要件は、①「所有の意思」、②「平穏」「公然」、③「他人の物」、④「二十年」の「占有」、⑤時効援用の意思表示(145条)が要件となる。

 ①②は186条1項により推定される。本件では、1987年3月26日にBはAから甲土地という「他人の物」(③)について贈与を受け占有を開始しているため、2007年3月26日の経過時に「二十年」の「占有」をしたといえる(④、同2項参照)。よって、時効援用の意思表示(⑤)をすることで甲土地を時効取憶するとも思える。

 もっとも、Dは甲土地について売買を原因とする所有権移転登記をしており、Dは「第三者」(177条)といえBは所有権を失ったのではないか。

(1)時効完成後の第三者と時効取得者は二重譲受人の関係にあるため、時効完成後の第三者は「第三者」にあたりうる。「第三者」とは上記の者である。

(2)本件でも、CD間の甲土地の売買が、Bが甲土地を時効取得した2007年3月26日以後であればDは時効完成前の第三者といえる。また、Dは当事者及び包括承継人以外の者であり(a)、Cから、Bはいつでも立ち退きを求めることのできる者であることを聞いているにすぎず、自由競争を逸脱するとは言えないため、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有するといえる(b)ため、「第三者」といえる。よって、Bは登記を備えた所有権を失うため、Bの反論は認められない(※Dが対抗要件の抗弁を主張できることから)

4.もっともBからは、BはDに対抗できないとしても、Dが甲土地の所有権を取得した2008年6月20日を起算点として短期取得時効(162条2項)をしたとの反論も考えられる。要件は、①「所有の意思」、②「平穏」「公然」、③「他人の物」、④「十年」の「占有」、⑤占有開始時に「善意」、⑥無「過失」であることである。①②⑤は186条1項によって推定される。また、Dの甲土地は「他人の物」(③)である。そして、同日から2018年6月20日は経過し、Bによる甲土地の「十年」の「占有」(④、同2項参照)があったといえる。Bの占有形態は1987年3月26日から変わっておらず、無「過失」(⑥)。よって、⑦があればBの反論は認められるとも思える。もっとも、Dは甲土地に登記をしている。

(1)時効完成前の第三者と時効取得者は当事者の関係にあるため、時効完成前の第三者は「第三者」にあたらない。

(2)本件では、Dは時効完成前の第三者であり、「第三者」にあたらない。よって、Bは応期なくしてDに対抗できる。

5.以上から、Bの反論が認められ、Eの請求は認められない。

第2.設問2

1.GのBに対する所有権に基づく返還請求権としての甲土地の明渡請求権は認められるか。Gは甲土地を所有しBがそれを占有しており認められるとも思える。

2.もっとも、Bから甲土地の賃借権(601条)を時効取得したとの反論がありうる。賃借権は「所有権以外の財産権」(163条)といえるか。

(1)時効制度の趣旨は継続した事実状態の尊重にある。一回的給付を目的とする債権はその尊重を観念できず、「財産権」にあたらない。もっとも、継続的給付を目的とする債権はその尊重が観念でき、「財産権」と例外的に言える。

(2)賃借権は目的物を継続的に使用収益させる給付が目的となっており、「財産権」といえる。

3.もっとも、時効中断確保の見地から、「自己のためにする意思」といえるには①賃借の意思に基づくことの客観的表現、「行使する」といえるには②土地の継続的用益という外形的事実が必要である。また、③「平穏」「公然」、④「十年」の「占有」、⑤「善意」、⑥無「過失」、⑦時効援用の意思表示が必要である。

 本件ではBはAに賃料を払っており、賃料は客観的資料であるため賃借意思に基づくことが客観的に表現されていた(①)。また、Bは甲土地を継続的に占有していた(②)。2008年6月20日から2018年8月まで「十年」の「占有」もある。③⑤⑥は186条1項で推定され、⑦もあるため、時効取得が認められるとも思える。

4.もっとも、甲土地には2008年6月20日にAはFのために抵当権設定登記がされており、甲土地につき賃借権の対抗力を備えていないBは賃借権の時効取得を対抗できないのではないか(605条、借地借家法10条1項反対解釈)。

(1)土地に抵当権が設定された後、同土地につき賃貸借契約が締結された場合、賃借人は抵当権者に対抗できない(605条反対解釈)。これは、賃借権を時効取得した場合も異ならない。そうすると、抵当権設定登記がされたあとに賃借権を時効取得をしたことを主張することはできないと考える。

(2)本件でも、Bは上記主張をすることはできない。

以上