慶応2020刑訴
第1.(1)について
刑事訴訟法319条1項、320条1項、326条1項、322条1項
第2.(2)について
1.本件書面にはXの本件に関する自白が録取されており、これは「任意にされたものでない疑のある自白」(319条1項)といえ、本件書面の証拠能力が否定されないか。
(1)同項が自白法則を定めた趣旨は、不任意自白は類型的に虚偽の恐れがあり、証拠として用いれば誤判が生じる恐れがあるため、それを防止する点にある。そうすると、「任意にされたものでない疑いがある自白」であるかは、虚偽の自白を誘発するような状況の有無から判断される。
(2)確かに検察に働きかけることなどできないKがXではないYに対する不起訴を検事に頼むという利益供与をしているにすぎない。しかし、一般人であるXにおいて、司法警察職員は不起訴を働きかけることができると考えてもおかしくない。また、愛する妻Yの不起訴はXにとっても大きな利益となる。そして、KはYが単独犯だと主張しているのにもかかわらず、Xに対しては共犯であることを自白していると嘘をついている。このように嘘をつかれれば長期の勾留で身体的・精神的に疲弊したXは虚偽の自白をしてもおかしくはない。よって、本件自白は「任意にされたものではない疑のある自白」といえ、それが録取された本件書面の証拠能力は否定される。
2.本件書面は「公判期日における供述に代」わる「書面」(320条1項、以下、伝聞証拠)といえ、証拠能力が否定されないか。
(1)同項の趣旨は、知覚記憶表現叙述の各課程を経る供述証拠ではその間に誤りが混入しやすいのに、伝聞証拠では反対尋問等による真実性の吟味をしえず誤判が生じてしまうため、それを防止する点にある。そうすると、伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠で、②供述内容の真実性を証明するために用いられる証拠をいう。②は要証事実との関係で決まる。
(2)Xの供述は取り調べ中という公判廷外でされた(①)。本件争点はXの犯人性であり、本件書面の立証趣旨はXが覚せい剤を購入したことであると考えられる。Xが覚せい剤を購入したことが証明できればXの犯人性を直接証明でき、争点に関連性を有する。よって、要証事実もXが覚せい剤を購入したことであり、本件書面は供述内容の真実性を証明するために用いられるといえる(②)。よって、本件書面は伝聞証拠といえ、原則として証拠能力が否定される。
(3)もっとも、本件書面は322条1項の要件を満たし、例外的に証拠能力が否定されないか。
ア、本件書面にはXの署名押印があり、「被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるもの」(同本文)といえる。また、本件書面はXの覚せい剤購入という「不利益な事実の承認を内容とする」といえる。もっとも、上記のように319条1項の要件を満たすため、322条1項但書の要件を満たす。
(4)よって、本件書面の証拠能力は原則通り認められない。
以上