娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

慶応2020商法

第1.問1

1.YのXに対する会社法429条1項に基づく損害賠償責任は認められるか。要件は、①「役員等」、②任務懈怠、③「悪意又は重大な過失」、④「損害」、⑤②④の因果関係である。

(1)Yは取締役であり、「役員等」である(①)。

(2)Yは貴金属の加工及び販売を事業として営む甲社の取締役であるため、Yは甲社の業務上顧客から預かった原料を適切に保管する忠実義務(355条)を負う。それにもかかわらず、本件でYは、従業員の給与を支払うための一時借用という不適切な理由で、Zに無断で純金を売却しているため、上記忠実義務違反がある。よって、任務懈怠がある(②)。

(3)本件ではYはZに対して加害意思があったわけではなく、③といえるか。

 ア、同項の趣旨は、経済社会において重要な役割を有する株式会社の業務を行う「役員等」の責任を加重することを特別に定めた点にある。そうすると、任務懈怠について知り又は重大な過失によって知らなければ「悪意又は重大な過失」といえる。

 イ、本件では、Xは純金売却については知っていたといえ、任務懈怠について知っていたといえる。よって、「悪意」といえる(③)。

(4)売却されたZの純金は1000万円であり、Zには1000万円の「損害」が生じている(④)。

(5)②④には社会通念上の因果関係がある(⑤)。

2.以上から、YのXに対する1000万円の上記損害賠償責任が認められる。

第2.問2

1.ZのXに対する同項に基づく損害賠償責任は認められるか。上記要件で判断する。

(1)Zは名目的取締役であり、「役員等」に含まれないのではないか。

 ア、同項の趣旨は上記の通りである。名目的であろうとも適法に選任された者は責任の加重を引き受けるべきであり、「役員等」にあたるといえる。

 イ、本件では、Zは取締役として適法に選任されている。よって、「役員等」といえる。

(2)ZはYの配偶者という地位と貴金属の加工及び販売を事業とする甲社の取締役としての地位を有する者として、取締役であるYが原料を適切に保管することを監視する忠実義務を有する。それにもかかわらず、監視義務を果たさなかった結果YはZの純金を売却しており、忠実義務違反がある。よって、任務懈怠がある(②)。

(3)確かにZは、Yが従業員の給与支払いのために純金を売却した事実について知らなかったため、「悪意」といえない。しかし、Yから甲社の事業が生きず待っていること自体は聞いていたため、Yが何らかの不正な行為に出ないかを監視する契機は存在したといえる。よって、それに気が付かなかったZには「重大な過失」があるといえる(③)。

(4)上記のようにZには1000万円の「損害」(④)が生じている。

(5)もっとも、本件ではZは甲社の経営に実際に関与したことはなかった。このようなYが監視によってZの不正を発見しそれを指摘できたとしても、Yは聞く耳を持たないといえ、任務懈怠と損害の間に因果関係はないといえる。

2.以上から、ZのXに対する上記損害賠償責任は認められない。

以上