娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H23民事実務基礎科目

第1.設問1

1.本件では、Xの相談内容からすると、AのYに対する消費貸借契約(民法587条)に基づく貸金返還請求権をAからXが売買契約(同555条)によって買い取ったため、XはYに対して100万円を請求したいと考えている。これは、譲受債権(同466条1項本文)の行使であるから、Xは、a譲受債権の発生原因事実、bその取得原因事実を主張する必要がある。

2.①③の主張は、消費貸借契約の締結の事実に関する主張である。587条は条文上、㋐返還約束、㋑金銭交付を要求している。また、消費貸借契約は物を一定期間借主が使用することを目的とするため、解釈上、㋒返還時期合意、㋓返還時期到来も主張すべきである。

 本件では、「返還することを約して」という返還約束(㋐)、「100万円の交付」という金銭交付(㋑)、「平成17年9月30日に返済することを約して」という返還時期合意(㋒)、「平成17年9月30は到来した」との返還時期到来(㋓)が主張されている。よって、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権という譲受債権の発生原因事実を主張したことになる(a)。

3.②の主張は、売買契約の締結に関する事実である。555条の条文上、㋐目的物の特定、㋑代金額又はその決定方法の合意が必要である。

 本件では、「①の貸金債権」という目的物の特定(㋐)、「80万円」という代金額合意(㋑)があり、売買契約の締結という債権の取得原因事実を主張したことになる(b)。

4.そして、不足する事実はない。よって、①②③が必要かつこれらで足りる。

第2.設問2

1.甲説は時効期間の経過(商法522条本文)のみでは訴訟法のみならず実体法上も効果が発生しないというものである。そうすると、実体法上の効果を発生させるべく時効期間の経過のみならず援用(民法145条)が必要となる。

2.一方で乙説は、実体法上は時効期間の経過で効果が確定的に生じるが、弁論主義第1テーゼより訴訟法上援用が必要になるというものである。

3.そうすると、どちらにせよ時効期間の経過に加えて援用という事実を主張する必要があり、両説の間で主張すべき事実に差異はない。

第3.設問3

1.①②について証拠調べする必要があるかは、①②の主張が失当でない必要がある。

2.①について

 平成22年5月14日にXはYに対して借金返済を求めている。これは、「催告」(同153条)にあたる。もっとも、「裁判上の請求」である本件訴えは「六箇月」を経過後の平成23年2月15日に提起された。よって、「以内に」といえず、時効中断に関する主張は失当であり、証拠調べは必要ない。

3.②について

 本件貸金返還請求権の返還時期は平成17年9月30日であり、「権利を行使することができる時」(同166条1項)から「五年」(商法522条本文)が経過するのは平成22年9月30日である。Yによる返済の懇願は同年12月15日であるから、時効完成後の債務承認にすぎず、「承認」(民法147条3号)とはいえない。もっとも、Yが時効を援用するのは信義則(1条2項)に反しないか。

(1)時効が完成した場合に債務を承認されれば、債務者は時効を援用しないという期待権が債権者に発生する。よって、時効完成後の債務承認は信義則に反する。

(2)本件でもYは時効援用後の債務承認をしており、時効援用は信義則に反する。

(3)よって、主張自体失当とは言えず、証拠調べの必要がある。

第4.設問4

1.本件ではQがAの意思に基づいて領収書が作成されたかわからないと主張しており、「真正」(228条4項)を争っているといえる。Aの印章による印影は「真正」を推定しないか。

(1)「本人又はその代理人」(以下、本人等)は自己の印章を厳重に保管するだろうから、経験則上本人等の印章による印影があれば、それは本人等の意思に基づいて押されたと事実上推定できる(一段目の推定)。また、そのような顕出があれば228条4項の法定証拠法則によって文書全体が本人等の意思に基づくと推定でき、「真正」といえる(二段目の推定)。

(2)本件でも、領収書にあるA名義の印影がAの印章によって顕出されたといえれば、上記二段の推定を働かせることができる。

2.以上の理由から、JはAの印章による印影であるかを尋ねたといえる。

第5.設問5

1.PがYに電話をかけた行為は、和解の交渉のためであった。よって、「交渉」(弁護士職務基本規定52条)にあたる。もっとも、「正当な理由」があるといえ、問題はないといえないか。

(1)同条の趣旨は、相手方の弁護士を介さない交渉を弁護士がすることで、相手方の利益を害することを防止する点にある。そうすると、交渉の必要性と相手方の不利益を考慮して、相当といえる場合に「正当な理由」があるといえる。

(2)本件では、Pの交渉の早期は被告側の感触を探りたいという緊急性の低いものだった。また、Qは2週間すれば出張から帰ってくるのであり、それからの交渉でも遅くはなかった。よって、交渉の必要性は低かった。

 一方で、和解は訴訟を終了させるものであるため、被告が法律知識のないまま交渉の相手方となれば、言いくるめられて不利な条項を飲まされる危険もあった。よって、不利益は大きかったといえる。

2.以上から、「正当な理由」はなく、同規定上問題があるといえる。

以上。