娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H23民事訴訟法

1.本件では、Xの提起した売買契約に基づく代金支払請求訴訟の訴状の被告欄には、Yが表示されていた。Yは平成22年4月3日に死亡しているから、Yが当事者だとしたら翌々日である同月5日に送達された訴状は「被告」に対するものとはいえず、訴訟が継続していないことになる。その場合、Xの請求認容判決について控訴審の審理では「第一審の判決の手続が法律に違反した」(306条)と判断し、判決を取り消すことが考えられる。ここで、当事者の確定基準が問題となる。

(1)基準の明確性の見地から、当事者は当事者欄のみならず訴状全体に表示されたもののことであると考える。

(2)本件では、確かにZの名前が訴状に表示されていたため、Zを当事者とする余地もあるとも思える。しかし、それは成年後見人として表示されていたにすぎず、被告がYであることを前提とした記載である。よって、Yが被告として訴訴状に載っている以上、当事者はYだったといえる。

2.以上から、控訴審では判決が取り消されるとも思える。もっとも、第1審ではYの子であるZが訴訟追行しており、例外的にZを当事者とみなすことはできないか。上記のように訴状を受け取る前に死亡してしまっているため、受継(124条1項1号)したとはいえないが、同号を類推適用できないか。

(1)訴訟を当事者以外の第三者に受継させる趣旨は、実体法の権利関係を訴訟に反映させる点にある。もっとも、このような受継は前に訴訟を追行していた者によって代替的に手続保障を受けており、受継者が訴訟の全過程を通して手続保障を受けていたことを前提としている。そうすると、①実体法上権利義務を承継した者が、②訴訟の全過程に手続保障を与えられていれば同号を類推し、当事者を受継者と修正することができる。

(2)本件では、Yには配偶者もZ以外の子もおらず、「子」であるZは単独でYを「相続」している(882条、887条1項)。また、ZはYが死亡したことを同日に知ったが、相続放棄民法938条)、限定承認(922条)をしないで「三箇月」(915条1項本文)が経過している。そうすると、ZはYを単独で、かつ無限に承継するから、本件売買契約に基づく代金支払義務の一切を承継したといえ、実体法の権利義務を承継したといえる(①)。

 そして、Zは第1回口頭弁論期日に出頭し、請求棄却を求める答弁をしているため、Zは訴訟の最初から手続に関わっていたといえる。また、一審では売買契約の有無が争点となっており、その中でZは「Yは重病で動けない。私は…自動車を見たこともない。」という具合に、売買契約が不存在であったことについて主張していた。そうすると、全過程を通してZには自己の義務を争うための十分な手続保障が与えられていたといえる(②)。

 以上から、124条1項1号を類推適用し、例外的にZを当事者とすることができる。

3.Zが当事者だったといえれば、Zが「被告」(138条1項)だったといえるから、訴訟手続の法令違反はなく、306条の適用はない。そして、第1審では、Xの請求が認容されており、控訴審は新たな事情がない限り第1審を相当とし、控訴を棄却すべきである。(302条1項)。本件では、控訴状にYが死亡していたことに関する主張、その他に主張はない旨が記載されているから、Xの認容判決を覆すような新たな事情はないといえ、Yの控訴を棄却すべきである。

以上。