娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H23民法

第1.設問1

1.DのCに対する所有権に基づく返還請求権としての甲土地明渡し請求権は認められるか。請求原因は、①D所有、②C占有である。Cは甲土地上に乙建物を所有して甲土地を占有している(②)。AB間の売買契約(民法(以下略)555条)は差し押さえを逃れるための仮装であり、それをABは「通じてした」(94条1項)といえるため、原則として無効である。もっとも、DはBから平成21年10月9日甲土地を買い受けている。甲土地はAの所有だが、他人物売買も有効であり(560条、561条)、Dは仮装について善意無過失であったのだから「善意の第三者」(94条2項)としてABに所有権取得(555条、176条)を対抗できる。よって、Dは同日に甲土地を所有していた(①)。

2.ここで、Cから以下の反論がありうる。Bは同年5月23日、Cに甲土地を賃貸(601条)した。甲土地はこの時点でA所有であるから、BはA所有の甲土地をCに他人物賃貸(559条、560条、601条)したことになる。そして、Bは同年12月16日にAを相続しており(882条、887条1項、896条本文)、Aの追認権・追認拒絶権も相続している。ここでBがAの資格で追認を拒絶することは矛盾挙動であり信義則(1条2項)上許されないから、BはBC間の他人物賃貸借を追認せざるを得ない。そうすると、BC間の甲土地についての賃貸借は確定的に有効となり、Cが甲土地上に乙建物を有する以上、借地借家法10条1項による対抗要件を具備しており、CはDに甲土地の借地権を対抗でき、CはDに対してBC間の賃貸借契約による占有権限を有するとの反論である。

3.もっとも、CはAB間の仮装について悪意だったのだから、Dが完全な所有権を主張できないのは不当である。そこでDは116条但書によって保護されないか。

(1)116条但書の趣旨は、追認による遡及効により利益が害される第三者を保護する点にある。そうすると、他人物賃貸借の真の権利者による追認によって権利が害される第三者には同但書が類推適用される。

(2)本件では、真の権利者はAの追認権を相続したBである。Bが他人物賃貸借を追認すれば、Cが甲土地を賃借できるようになるから、Dが取得するのは賃借権付きの甲土地ということになってしまう。よって、Dは追認によって権利が害される第三者といえるため、同但書の類推適用によってBが追認できないことを主張できる。

4.以上から、BはDとの関係で追認を拒絶せざるを得ないため、Cの反論は失当である。確かにCとの関係で追認を拒絶できるとするのは矛盾挙動であるが、Cの悪意を考慮すれば妥当な結論といえる。

5.以上から、Dの請求は認められる。

以上。