娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H24刑法

第1.甲の罪責

1.甲がX車をY車に衝突させて乙に怪我を負わせた行為に傷害罪(刑法(以下略)204条)が成立しないか。

(1)「傷害」とは、人の生理的機能に障害を加えることをいう。

 本件では、乙は加療2週間の頸部捻挫をしている。よって、頸部の機能に長期間障害が生じたといえ、「傷害」といえる。

(2)もっとも、乙は保険金詐欺に関する計画に関わっており、自らが傷害結果を負うことを承諾していたため、甲の行為の違法性が阻却されないか。

 ア、違法とは、社会的相当性を逸脱する法益侵害及びその危険である。よって、社会的に不相当な行為は同意があっても違法性が阻却されない。不相当性は、同意の動機、手段、部位等を考慮して判断する

 イ、乙が傷害結果に同意した動機は、乙の乗るY車にX車を衝突させ、病院で自覚症状を大げさに訴えることで保険金を多く詐取するという犯罪性の強いものだった。また、その手段は車を車に衝突さてるという危険なものであり、頸部という枢要部に傷害結果を与える危険なものだった。よって、乙が甲に傷害結果に同意を与えていたにしても社会的相当性はなく、違法性は阻却されない。

(3)以上から、傷害罪(a)が成立する。後述の通り丙との間で共同正犯(60条)となる。

2.甲がX車でY車を押し出しAに怪我を負わせた行為についても傷害罪が成立しないか。

(1)本件では、Aは転倒の際加療1か月の右手首の骨折を負っている。よって、手首の機能に長期間の障害を加えたといえ、「傷害」といえる。

(2)もっとも、本件では路面が凍結していたからこそY車が押し出されたといえ、これを甲は認識していなかった。ここで、甲の衝突行為とAの怪我に因果関係があるといえるかが問題となる。

 ア、因果関係は偶然を除去して処罰の適正を図るものである。よって、判断基底に限定を加えず、行為の危険が結果に現実化したかで判断する。

 イ、本件でも、路面凍結を甲が予想していなかったとしても、これを基底にできる。路面凍結が生じている状態で車を車に衝突させる行為は、前方の車を前に押し出して人に怪我を負わせる危険を有する。本件では介在事情なくそれが上記Aの傷害結果に現実化しており、因果関係が認められる。

(3)もっとも、甲はAに怪我をさせることを認識していなかったため、方法の錯誤がある。ここで、方法の錯誤は故意を阻却しないか。

 ア、故意とは構成要件該当事実の認識・認容である。よって、認識した事実と発生した事実が同一構成要件内で一致すれば方法の錯誤も故意を阻却しない。また、故意がこのように抽象化される以上故意の個数は結果に対応して観念できる。

 イ、本件では、甲は乙に傷害結果を発生させることは認識しており、「人」(204条)に対する「傷害」は認識していた。Aも「人」であり「傷害」結果が生じていることからして、傷害罪という同一構成要件内の一致があるといえる。よって、本件方法の錯誤は故意を阻却しない。また、上記のように故意は2つ観念できる。よって、故意が認められる。

(4)以上から、傷害罪(b)が成立する。後述の通り乙・丙と共同正犯となる。

3.甲が保険金を請求した行為に詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立しないか。

(1)「欺」く行為は、交付の判断の基礎となる周代な事項を偽ることをいう。

 本件では、事故を自らが故意に起こしたものであることを秘して請求している。偽装事故であることがわかれば保険会社は契約上保険金の支払いを拒むといえる。よって、交付の判断となる重要事項が偽られており、「欺」く行為があるとえいる。

(2)もっとも、本件では保険会社は調査の結果支払いをしていないため、「交付」といえず、結果が発生していない。

(3)以上から、詐欺未遂罪(c)が成立する。後述の通り乙・丙との間で共同正犯となる。

第2.乙の罪責

1.甲がAに怪我を負わせた行為に、乙に傷害罪と詐欺未遂罪の共同正犯が成立しないか。

(1)共同正犯の処罰根拠は、相互利用補充関係による因果性の惹起にある。よって、①共謀、②それに基づく実行行為が要件となる。

(2)本件では、計画内容の中でX車をY車に衝突させて「人」を傷害する意思連絡があった。また、保険金に対して損害分の保険金支払を請求することも計画しており、「欺」く行為についても意思連絡があった。また、Y車は乙所有であり、車を提供した乙は犯罪の主体性が高い。そして、保険金は乙にも分配されるため、動機は十分あった。よって、正犯意思もあるといえる。よって、共謀があるといえる(①)。また、X車のY車に対する衝突・保険金の支払い請求は計画通り行われており、①の基づく実行行為があるといえる(②)。以上から、傷害罪・詐欺罪の共同正犯(de)が成立する。

第3.丙の罪責

1.甲が乙・Aに怪我を負わせた行為、甲・乙が保険金支払を請求した行為について、傷害罪・詐欺未遂罪の共同正犯が成立しないか。

(1)上記規範で判断する。

(2)甲は計画を丙に話している。よって、傷害・詐欺未遂についての意思連絡がある。また、丙は乙のように車を用意していないものの、保険金を得るという動機があり、正犯意思もある。よって、共謀(①)があるといえる。また、計画通りの犯行があり基づく実行行為もある(②)。

2.もっとも、「俺は抜ける。」といった丙については甲・乙との共犯関係が解消されたといえないか。

(1)上記共同正犯の処罰根拠から、物理的・心理的因果性の遮断があれば解消が肯定される。

(2)本件では、丙は車を用意していないため、犯行のための道具を提供していないといえる。よって、物理的因果性はなかったといえる。もっとも、丙は甲や乙の犯行を積極的に妨害する行動をとっておらず、甲・乙からの電話を無視し続けたにとどまる。よって、甲・乙は丙とともにした共謀の影響を受けながら犯行に及んだといえ、心理的因果性は遮断されていない。よって、共犯関係の解消はないといえる。

(3)以上から、乙に対する傷害罪(f)、Aに対する同罪(g)、詐欺未遂罪(h)の共同正犯が成立する。

第4.罪数

1.甲のabは「一個の行為が二個以上の罪に触れ」(54条1項前段)る場合であり、観念的競合となる。それとcが併合罪(45条前段)となる。

2.乙のdeは併合罪となる。

3.丙のfghはfgが観念的競合、それがhと併合罪となる。

以上。