娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H24行政法

第1.実体法上の違法事由について

1.本件では、Aが「市長」Bの「確認」を受けないで「排水設備の新設等」(本件条例9条)をしたという違反が、「条例…の規定」の「違反」(本件規則11条)とされたことが本件処分の理由となっている。もっとも、本件工事をしたのはCであり、Aは「排水設備の新設等を行った者」(本件条例40条(1))といえないのではないか。

(1)同条例9条、40条の趣旨は、組織的に行われた危険な排水設備の設置を禁じ、乙市に生じる危険を防止する点にある。そうすると、「排水設備の新築等を行った者」には法人のみが含まれると考える。

(2)本件では、確かにCはAの従業員であったため、本件工事は法人であるAの行為であるとも思える。しかし、本件工事はCが技術を有していたため独断で行ったものであり、Aの事業とは何ら関連性を有しない。また、CはAの役員でもなく、Cの行為をAの行為と同視することもできない。そうすると、Aは「排水設備の新築等を行った者」であるといえず、本件処分は本件規則11条に反し、違法である。

2.同条に反しないとしても、同条は「できる」と定めているため、形式的に市長に裁量を認めている。また、同条の趣旨は、市内の排水設備の事情に通暁する市長に指定工事店の指定の是非の判断裁量を与える点にあるため、実質的にも市長に裁量が認められる。同条に基づく本件処分は「裁量処分」(行政事件訴訟法(以下、行訴30条)であり、裁量の逸脱濫用があり、社会通念上著しく妥当性を欠く場合にのみ違法となる。

 本件では、Aの代表者はCを伴って乙市役所で事情を説明しており、Aには真摯性が認められる。また、本件処分以前にはAは何ら処分を受けてこなかったため、指定をいきなり取り消す必要性は低い。

 それにもかかわらず、指定の効力の停止という選択肢と比べて指定取り消しという著しい不利益を課する本件処分は非常に重い処分である。

 そうすると、本件処分では比例原則違反が認められ、裁量の逸脱濫用があり、社会通念上著しく妥当性を欠くといえ、違法である。

第2.手続法上の違法について

1.本件処分は指定の取消しという「権利を制限」(乙市行政手続条例(以下、行手)2条4号柱書本文)あり、「不利益処分」(同号)である。そうすると、本件処分の通知書における記載が「理由」(行手14条1項本文)として十分かが問題となる。

(1)同本文の趣旨は、行政庁の恣意を抑制し、被処分者に不服申し立ての便宜を与える点にある。そうすると、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規が適用され、当該処分がされたかを、被処分者自体において了知できる程度の記載がなければ「理由」として不十分である。

(2)本件では、「Aが、本件市長の確認を受けずに、下水道接続工事を行ったため。」という事実関係のみが記載されている。そうすると、法規が記載されていないといえ、いかなる法規に基づき本件処分がされたかをA事自体において領置できないといえ、本件では「理由」として不十分である。

2.また、本件処分は指定という「許認可等を取り消す不利益処分」(行手13条1項1号イ)であり、「聴聞」(同号)が必要だった。それにもかかわらず、意見陳述の機会がAに与えられていなかったのであり、同号違反が認められる。

3.もっとも、手続上の違法が本件処分の取消事由となりうるか。

(1)手続上の違法があったとしても、実体法上当該処分が適法であれば、当該処分を取り消したとしても再度同一の処分が下されるため、原則として手続上の違法は取消事由となりえない。もっとも、手続上の違法が処分の結果に影響を及ぼす可能背があるものであれば、同一の処分が下されるとは言い切れず、その違法は例外的に取消事由となる。

(2)本件では、理由提示と聴聞の不存在という違法事由がある。前者について、理由提示が不十分であれば、行政庁の恣意による処分となることもあり、結果に影響が及ぶ可能性がある。また、後者について、意見陳述の過程で本件処分が違法であるとの判断がされる可能性もある。よって、本件両違法は取消事由となり、本件処分の違法があるといえる。

以上