娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

中大2020商法再現

第1.設問(1)

1.前提として、甲会社の乙会社からの5億円の借入れ(以下、本件借入れ)は「多額の借財」(会社法362条4項2号)にあたり、甲社では取締役会決議を要しないか。

(1)「多額」であるかは個別的事情を考慮して判断せざるを得ないため、「多額」であるかは、借財の価格、会社の総資産に占める割合、借財の目的、従来の取り扱い等を総合して判断する。

(2)本件借入れの価格は5億円と高額である。また、この額は甲社の資本金の額の5倍も大きい額である。そして、本件借入れの目的は、甲社の設備投資と資金繰りという甲社の業務に重大な影響を生じさせるものである。そうすると、本件借入れは「多額の借財」にあたり、甲社では取締役会決議を要する。

2.よって、代表取締役Aは甲社の内部において、取締役会を招集し(366条1項本文)、「取締役」ABCの「過半数」である2名以上の出席の下、出席者の「過半数」の承認を得る必要がある(369条1項)。

3.また、甲社には監査役であるDがいるため、AはDに対して取締役会への出席を要求することが考えられる(383項1項本文参照)。

第2.設問(2)

1.①について

 Qの新株発行差止め請求(210条)は認められるか。

(1)QはP社の「株主」(同条本文)である。また、Qは本件新株発行で自己の甲社株式の持株比率が低下するという「不利益を受けるおそれがある」。

(2)また、甲社は非「公開会社」(2条5号)であるため、新株発行には株主総会特別決議を要する(201条1項参照、199条2項、309条2項5号)。それにもかかわらず、本件ではそれは開催されておらず、「株式の発行…が法令…に違反する場合」(210条1号)といえる。

(3)以上から、上記請求は認められる。

2.②について

 Qの新株発行無効の訴え(828条1項2号)は認められるか。QはP社の「株主」(同条2項2号)であるため、「六箇月以内」(同条1項2号)に、P社を被告として(834条2号)「訴えをもって」(828条1項柱書)提起できる。もっとも、「無効」といえるか。

(1)法的安定性確保の見地から、「無効」は重大な瑕疵に限られる。

(2)本件では、上記のように、非「公開会社」P社において株主総会特別決議を欠いている。非「公開会社」では、株主の持株比率の維持が会社法上要求されている(同項1号括弧書参照)。そうすると、P社での上記決議の欠缺は重大な瑕疵といえる。

(3)よって、「重大」といえ、請求は認められる。

以上