娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

中大2020民訴再現

第1.設問①について

1.本件では、Xは本訴を提起しているにもかかわらず、本訴債権を自動債権とする相殺の抗弁を別訴で提出している。この相殺の抗弁は「訴え」(民事訴訟法142条)にはあたらないが、同条を類推適用できないか。

(1)同条の趣旨は、既判力の矛盾抵触の恐れ、被告の応訴の煩、訴訟不経済の回避である。確かに裁判所は本訴と別訴で二重に同一債権を審理する以上、これらの趣旨は害されるとも思える。しかし、本訴被告の受働債権が存在しないと判断されれば相殺の抗弁に既判力は生じない(114条2項参照)ため、相殺の抗弁が提出されたとしても既判力の矛盾が生じるとは限らない。また、別訴を提起するのは本訴被告であるため、応訴の煩は問題とならない。そして、上記のように相殺の抗弁が審理されるとは限らない以上、訴訟経済の確保も問題とならない。よって、相殺の抗弁が提出された場合は同条の趣旨は妥当しない。

(2)したがって、本件でも同条は類推適用されず、裁判所は相殺の抗弁を審理することができる。

第2.設問②について

1.本件では、142条を類推適用できないか。

(1)同条の趣旨は、上記の3つである。相殺の抗弁は「主文」(114条1項)たる訴訟物ではないが、例外的に「対抗した額」に既判力が生じる(同2項)。よって、相殺の抗弁が審理された場合既判力の矛盾抵触が生じる恐れがある。また、被告は二重に受働債権が存在しないことを主張する必要性が生じ、負担となる。そして、裁判所も二重で同一債権を審理する以上、訴訟経済も害される。よって、相殺の抗弁の場合も同条の趣旨が妥当する。

(2)したがって、本件でも同条は類推適用され、裁判所は相殺の抗弁を審理することができない。

第3.設問③について

1.①の立場を支持する。

2.理由

 確かに相殺の抗弁が別訴に先行する事案であれば、本訴被告は相殺の抗弁を取り下げた上で別訴を提起すればよいため、相殺の担保的機能に対する期待を保護する必要性は低く、同条を類推適用すべきである。しかし、抗弁が別訴に後行する事案では、本訴原告が先に自働債権を訴訟物とする本訴を取り下げるには本訴被告の「同意」(261条2項本文)が必要となる。そうすると、抗弁後行型では相殺の担保的機能に対する期待を保護する必要性は高いといえる。よって、同条を類推適用すべきでない。

 本件では、Xは別訴後に500万円を自働債権とする相殺の抗弁を提出している。よって、本件は抗弁後行型の事案であり、同条は類推適用されない。

以上