娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H27商法

第1.設問1

1.(1)について

 EのA・Cに対する会社法(以下略)429条1項に基づく損害賠償請求権は認められるか。①「役員等」、②任務懈怠、③「悪意又は重大な過失」、④「第三者」の「損害」、⑤②④の因果関係が要件となる。

(1)AはX社の代表取締役であり、Cはその取締役だから二名とも「役員等」である(①)。

(2)Aは高級弁当製造販売事業をする会X代表取締役として、その事業を達成するために順守することが必要不可欠な「法令」(355条)である食品衛生法を自己のみならず部下にも遵守させる義務があった。それにもかかわらず、本件では回収された弁当を再利用することを内容とするDの相談に対し、「衛生面には十分気を付けるように。」と述べただけであり、再利用をやめさせることはなくむしろDに食品を再利用することを許容する発言をしている。そうすると、食品衛生法を順守させるような姿勢はAから読み取れず、Aには任務懈怠がある(②)。

 CはX社の弁当事業販売部門本部長として、「法令」である食品衛生法が禁止する行為が同部門内にはびこらないように努力する義務があった。それにもかかわらず、消費期限が切れて回収する弁当が多いという勝手な理由で回収された弁当の一部を再利用するようにDに指示していたため、同部門内に食品衛生法違反の行為がはびこることを黙認していたといえる。よって、上記義務に違反し、Cにも任務懈怠があったといえる(②)。

(3)AはDから相談を受けたうえでCからも事情を聴いている。そうすると、Aは上記食品衛生法違反の事実について詳細に知っていたといえる。よって、「悪意」は問題なくあるといえる(③)。そして、Cは食材の再利用をDに指示していることをAに対して認めている。食材の再利用は素人目で見ても衛生上問題があるため、プロであるCが食品衛生法違反該当事実を認識していたことは明白である。よって、Cも「悪意」といえる(③)。

(4)「第三者」Eには食中毒の被害者であり1億円相当の損害が生じている(④)。

(5)②④に社会通念上の因果関係がある(⑤)。

(6)以上から、EのA・Cに対する上記請求は認められる。

2.(2)について

BのA・Cに対する429条1項に基づく損害賠償請求権は認められるか。同要件で判断する。

(1)①②③はEの請求と同様に充足する。もっとも、BはX社の株主であり、「第三者」といえるか。

 ア、会社の損害が株主代表訴訟(847条1項)によって回復すれば、同時に株主の利益も回復する。また、株主の429条1項の請求を認めれば会社の損害の回復と自己の損害の回復という二重の利得をすることになる。よって、原則として株主は「第三者」とはいえない。もっとも、上記理由が妥当しない特段の事情がある場合には例外的に同項による救済の必要性があり、株主も「第三者」といえると考える。

 イ、本件では、X社の株式はX社に係る破産開始手続によって無価値となっている。そうすると、もはやX社が株式価値を回復させることは不可能である。このような会社の株主に429条1項の請求を認めても二重利得にはならない。よって、上記特段の事情があり、株主Bは例外的に「第三者」であるといえる。Bには株式価値が下落するという「損害」が発生している(④)。②④には社会通念上の因果関係がある(⑤)。

(2)以上から、BのA・Cに対する請求は認められる。

第2.設問2

1.Y社は22条1項の責任を負い、X社の損害も賠償すべきと言えないか。X社はY社にホテル事業を「譲渡」(467条1項2号)しており、特別決議(同柱書、309条2項11号)も経ていることから、本件事業譲渡は有効である。よって、Y社は「事業を譲り受けた会社」(22条1項)といえる。しかし、Y社は商号中に「甲荘」の文字を用いておらず「商号を引き続き使用する」といえない。ここで、類推適用によって責任を負わないか。

(1)同項の趣旨は、譲受会社が債務を引き継いだように見える外観を信頼した債券者を保護するという表見法理にある。そうすると、事業主体の名称が継続使用されている場合は類推適用を認めてよい。

(2)本件では、X社は設立当初から「甲荘」という名称のホテルを経営しており、Y社はその経営を継続している。よって、事業主体の名称の継続利用があり、同項を類推適用できる。

2.もっとも、上記損害は弁当事業によって生じたものでありホテル事業によって生じたものではないから、「譲渡会社の事業によって生じた債務」といえず、同請求は認められない。

以上。