娯楽の基本書

東京大学大学院法学政治学研究科在学中。司法試験、予備試験、ロー入試攻略サイト(途上)。

予備試験H27民事訴訟法

第1.設問1

1.判例は実体法上の請求権ごとに訴訟物を異にするという旧訴訟物理論をとっている。ここで、財産的損害は民法709条、精神的損害は710条に規定されてあるため、両損害の賠償請求権は民法上請求権を異にし、訴訟物を異にするとも思える。しかし判例は、両損害は原因事実、被侵害利益が共通しているから、両請求の訴訟物は同じと述べている。そうすると、判例は損害を発生させた原因、どのような利益が侵害されたかをみて請求権・訴訟物の異同を判断しているといえる。

2.裁判所・Xにとっての利点

 仮に財産的損害についての請求権、精神的損害についての請求権が異なる訴訟物であるとする。そのような仮定の下、本件で財産的損害が500万円分しか認められない一方、精神的損害が500万円認められた場合、申立事項拘束主義(民事訴訟法(以下略)246条)によって裁判所はXの主張する300万円を超えた200万円部分について判決を下すことができない。その結果、認容額は800万円となる。

 一方で、判例の見解の下では、Xが主張する額は全体で1000万円となる。よって、裁判所が財産的損害・精神的損害それぞれ500万円と認定した場合であっても、裁判所は申立事項内での判断によって1000万円全額を認定することができる。

 このように裁判所は当事者の主張する具体的な損害の種類に拘束されることなく、精神的損害・財産的損害の合計額を上限として、柔軟な認定をすることができる。Xにとってみれば上記の例のように認容額が増えることがある。この点に裁判所・Xへの利点がある。

3.Yにとっての利点

 既判力は「主文」(114条1項)である訴訟物について生じるため、訴訟物が異なる見解に立てば、財産的損害700万円についてXが一度請求した後、もういちど精神的損害300万円について訴訟を提起することも可能となる。

 一方で、訴訟物が同一という見解に立てば、財産的損害のみを請求する趣旨で訴訟を提起したとしても精神的損害の額についても既判力が生じるため、それを避けるためにXは財産・精神的両損害についての訴訟を一回だけ提起するように努めることになる。そうすると、紛争の一回的解決が図れ、Yの応訴の負担が回避される。この点にYの利点がある。

第2.説問2

1.Aが①一部請求であることを明示して、②少なくとも減額されると考えた額である3割を減額した700万円を請求した理由は何か。

2.①について

(1)前提として、一部請求を明示した場合、訴訟物は一部と残部で分断されるか。

ア、訴訟物は処分権主義の問題であり、処分権主義の趣旨は私的自治の訴訟法的反映と被告の不意打ち防止である。一部であることを明示した場合原告の意思は残部の請求可能性を残す点にある。そして、一部であることが明示されれば被告の不意打ち防止にはならない。そうすると、一部であることを明示すれば訴訟物が分断されると考える。

イ、本件では、Aは一部であることを明示しており、訴訟物が700万円と300万円に分断される。

(2)そうすると、仮に700万円を超えて債権が存在すると判断された場合、既判力が700万円の存在についてのみ生じ、300万円の一部または全部について請求をすることができる。Aはこの後訴での請求可能性を残すために一部であることを明示したといえる。仮に明示しなかった場合は上記趣旨、機能から訴訟物が分断されず、700万円以上債権が存在するとの心証を裁判所が得たとしても、損害が700万円存在することについて既判力が生じ、300万円の全部または一部の請求ができなくなる。

3.②について

 原告の合理的意思の尊重という見地から、一部請求時には裁判所が債権全額から過失相殺をするという外側説が判例の見解である。そして、提訴手数料は訴額が増えれば同時に増えていくから、原告は得られる金額が同じなら訴額を減らしておきたいと考えるのが通常である。

 仮に1000万円を請求しても、300万円が過失相殺されれば700万円しかXが得られない。そして、手数料の額は1000万円についてである。

 一方で、最初から700万円を請求したとしても過失相殺が上記外側説によるため、認容額は700万円となる。この場合の手数料の額は700万円についてで済む。

 このようにAは手数料を削減するためにわざわざ3割を減額したといえる。

以上。